[5-04]今浮かんで出てきたやつ、何?
あらすじ
「黒いタコでしたし。案外お鍋に合いますよね、タコ」
本作恒例、鍋タイム。
闇鍋だからといって五寸釘を入れたアイツを赦さない、そんな悲哀と辛苦の4節を生き残れ!
スタート!

タマ先輩~、晩ご飯できましたー!!

……ふう。お疲れ様、ココアちゃん。ごめんね、キッチン任せちゃって(←お仕事)

なんか、リゾートだろうといつも通りの疲れたタマ先輩のお姿……せめて晩ご飯の時ぐらいは休みましょうよ! 一緒に一緒に!!

ふふっ、そうだね。じゃあ一緒させてもらおうかな……?
時刻、丁度19時。
夏なのでまだ夕闇って感じの空模様だが、一般的には健康的な時間帯の夕食にココア達も入った。

タマ先輩っていつもは晩ご飯いつ頃とられてるんですか?

私は、変則的かなぁ……バイトに入ってる時とかは、栄養補助食を日が変わった頃に摘まむくらい

まさかその後の時間も仕事を……?

タマくんの10秒メシに私はなりたい

食事は万事の始まり、タマはもっと価値を見直すべし。しかしこう、大勢で囲むタイプも見直すべし……(←コミュ障)

……今更だが、玉席でもない俺たちがこの場にいるのは大丈夫なのか? 夕餉の用意まで自然とさせてしまった形だが

確かに。主と同じ質の椅子に座り箸を持つなど、侍従としては如何なものか――げぷ(←コーラ缶)

ココア様の念押しがなければ、私は既に退室していたのですが(←バーベルスクワット)

何つーか、女子率高いのにこう、胸躍らないのどういうことなんだろうなココア?

私も見てて頭痛誘発しそうですよこの光景
でっかいテーブルに、でっかいコンロ。人数分の取り皿とお箸、お好みのポン酢やタレ、からしにわさびにスパイス粉。
9人分の木製イスに座布団を敷いて、お風呂さっぱりな少年少女が囲む。
晩ご飯は何か? そんなの問うまでもないことは全員分かっているのである。

さあ――期待するぜ、ユサっち!! 今日は一体、何鍋だ!!


このために生きてると言っても過言じゃない鍋奉行ユサの至極の百撃必殺鍋、略して至極鍋、どうぞいつも通り期待してくれちゃっていいんですよ!! 8人同時に相手にするのは実は初めてなので、私も楽しみにしてました!!

百撃必殺とか略しちゃって大丈夫なのユサさん!? 私結構ユサさんの鍋に精神破壊されてきた過去があるからぶっちゃけその張り切り方、不安が大半なんですけど!?

やはり鍋

普段から控え目に言っても頭おかしい黑稜生だが、確かに鍋の前に立っている時はより一層活き活きしているな……

私のことはいいんですよ、それよりも、お鍋をどうぞ!!
ドンッ、と超重量のお鍋がコンロに着陸。
既にしっかり熱せられている中身が披露される。


至極鍋新作・澆季末世黄昏鍋、夏だからこその超火力!! 自ら火を噴く辛さでもう一度お風呂に入ってもらいますよーぉ!! あ、トイレには籠もらない為に劇物は入れてないので安心してくださいね

不穏なキーワードが多すぎる……ッ!! 隣で具材切ってた時は普通の鍋って感じだったのにいつの間にこんな闇堕ちしちゃってたの具材たち!? 私辛いの苦手だけど大丈夫なのかなユサさん!?

私がココアちゃんの食べられないもの用意すると思う? ほら一口どうぞ(←よそう)

故意に用意することはよくあるよねユサさ――美味しいッけど辛ぁああああ……!! でも暴力的ってわけじゃなくて実に旨味のある辛さです!!
黒い物体を押し付けられたココアがノータイムで食レポを披露した。日頃の友達付き合いの賜物である。

ココアが食べられるということは、我々も食べられないものではないと判断してよさそうです

まあ、コイツに限って何もかも粗末な鍋は用意しないからな。鍋奉行にだけはプライド持ってるし

……毒は入っていない、か。ユサ殿であればそれも有り得ましたが

私は毒味役ですかダンベルさん!? でもホント美味しいから、今回の鍋は大丈夫ですよ!! 辛いけど!!

さあさあ、具材たちが煮詰まり過ぎて朽ちてしまわないように待ったなし、鍋パの時間ですよ鍋パ! 当然鍋奉行は私が担当しまーす

わーいいただきまー(←自分の箸でしらたきをよそう)

当然鍋奉行は私が担当しまーす、って今言ったばかりでしょココアちゃぁあああん!!? あと菜箸ぃいいいいッッ、脳みそココア詰まってるのぉおおおお!?!?

ぎゃあぁああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいッッッ!!?

本当にコレは食事の時間なのか……? どうして今、生命の危機を感じているんだ?

ウミナリ、先に言っておくが絶対ドジるなよ。死ぬぞ

お家帰りたい
ということで、マナーがストイックに試される地獄の晩餐が始まった。
再度強調しておくが、鍋奉行ユサの用意するお鍋は多少ユニークな中身となってはいるが、味は一定以上保証されている。デッドオアアライブを常に感じるという落ち着きの無さを除けば、総じて上質なお食事なのである。
丁度良く切り分けられたキャベツ白菜ほうれんそう、がっつり出汁の染みこんだデザイン大根、柔らかく仕上げられたにんじんや鶏肉、ベースといえる具材たちに加えてしらたき唐揚げ茄子クッキー、ウズラにゴーヤに納豆春巻き、白米の隣にかき氷。
黑稜フリーダム優等生の毎日を具現するかのような、名状しがたい美味しさが1つの鍋にぶち込まれていた。

どーです副会長様? 栄養もガッツリ! 副会長様よりお料理上手なんですよー私

私、そんなに料理得意なわけじゃないですけど……でもそういった工夫考慮をちりばめるのですから、ユサ様は良妻賢母になられそうだと感じています

いいお嫁さんになれるってことですか? どうしましょ参席様、私、副会長様に口説かれちゃいましたよー。はい今度はコレ食べてみてくださいっ

調子に乗るなよぉおおおお貴様なんか私達の新居に跨がせもしないんだからなぁあああもっと肉入れろ肉っ

どうして貴方とタマがセットで新居を購入することになってるんですか?

ツララ先輩、妄想はいいけど鼻血出しちゃダメですからねッ、真っ赤に染まっていいのはこのにんじんと見分けがつかなくなってる謎大根ぐらいですからねっ(←よそう)

ココアちゃんツーアウトぉおおおお!!! あと1アウトでチェンジなんだからねえぇええええ!?!?

ぎゃあぁああああごめんなさいごめんなさいッッチェンジしないでえぇえええ!?

……っと、そうだそうだ。お写真撮らないと
ユサは仕事を思い出して平常の姿に戻った。

写真?

ほら、私って今回玉席様の広報担当だから。後々コラム作って、今年の玉席のプライベートビーチ姿はこんなんでしたよーって公開しないと

そういやそういう文化なんだったか。……いや、いつからお前そんなポジションなったの?

というか鍋の写真撮ってどうするんですか

ちょっと見栄え整えますねー
まだまだ具材てんこ盛りの未知鍋を、ユサが菜箸でビジュアル調整。
具材を種ごとにグルーピングして、あらためて自分達はとんでもないモノを食べさせられているんだということを思い知らせる迫力あるお鍋を魅せていく。
……………………。

……? あの、ユサさん

どったの、チェンジ寸前のココアちゃん

チェンジしないで……えっと、気になってたんだけど。その、今浮かんで出てきたやつ、何?
視界良好な感じにされた出汁のプールに、ぷかぷかと何かが浮かんできた。
真っ黒い物体であった。

ココアちゃんもう食べたよね?

うん、一口目で食べさせられたやつ……勢いというかいつもの流れで食べちゃったけど、未だにコレが一体何のお肉なのか分かってないんだよね……

ん? これ何かの魚じゃないのか? マグロかと思ってた

……失敗した真っ黒焦げ唐揚げかと思ってたなり

え、マジ? 俺シイタケでも揚げたのかとばかり

……ちょっと待て。本当に、コレは何の肉なんだ?

え? タコですよ

「「「……タコ?」」」

はい、タコです。タコとしか言いようがないくらい、タコ肉じゃないですかー

タコ……? この食感が、タコ……? いや、そもそもビジュアルが黒過ぎでは……

黒いタコでしたし。案外お鍋に合いますよね、タコ

……………………黒いタコ?
ココア、午前中の出来事が突然全身にフラッシュバック。

だ、ダンベル!? どうして!? 何してるのッ!?

どうにも最近、海洋環境に不穏な要素が見え隠れしているといった情報を個人的に得ていたので。藍澤の管理が届いているとはいえ本来専門ではない領分でしょう、だから念のため調査をしていたのですよ。すると、この見慣れない漆黒の怪物を発見したので処理を

ダンベルさん武器は?

体液を淋漓されては海が汚れ皆様の支障になるかと判断し、素手で対応いたしました。しかし、墨を吐くあたり蛸の類いでしたか……危険要素でしたから強制処理は続行しましたが、これでは景観が台無しですね

――黒いタコぉおおおおおお!?!?
毒味役ココア、本当に毒味させられていたことを10分以上経過したところで思い知った。
思わず全身を叩き摩り、異常がないかを確かめる。他の面々も一斉に咳き込みだす。

一体いつ、アレほどの巨体を調理する隙が……? そもそもアレは調査に回されていたはずですが……

勿論全部を入れるのは諦めましたよ? だから最も一般的によく食べられてる足の部分だけ、ちょーっと味見させてもらおうかなーって調査の方々から拝借してたんですよ

味見したの私だし拝借どころか食ってるしッ!! 大丈夫、アレ大丈夫なやつだったの!? フグ的なアレはないよねぇ!?

加熱してるし大丈夫じゃないかな、タコだし

タコっぽいビジュアルだっただけでタコと決まったワケではなかったでしょう、何故率先して我々が身体を張って調査しなきゃいけないなり!!

……急に食欲が……


おっと、食べられるっぽいことはココアちゃんの身体で実証済み……ていうか私の長年培った鍋奉行の勘が、コレはまぁ何とかなるやつだと告げてるっぽいので大丈夫ですよ! さあさあ、お残しは赦しませんよ~……!! うふふ、うふふふふ――(←よそう)

安全基準盛大に模糊ってんだよなぁ

……もしやユサくん、君自身このような冒険一度や二度ではないんじゃないか……? 何か違う理由で腹が痛くなってきたぞ……

これ以上の冒険を癖付けられる前に、止めるべきですね。何なら息の根ごと止めるが適切やもしれません

ぎゃーー私の取り皿にいつの間にか謎肉がこんなにッ。結局今回も地獄鍋に精神破壊されるーー!!!
それからも、至極鍋あらため地獄鍋パーティーには断末魔が響き渡った。
……………………。

…………ご馳走様でした……

お粗末様でした☆ ちゃんと全部食べてくれて、嬉しいな!

「「「…………」」」

そういえばデザート作ってたよね。ココアちゃん、もうがっつり冷えたんじゃない?

ああ、そうか危うく忘れるとこだった……! テリーヌテリーヌ!!

まだ何かお見舞いする気なのか……?

もう身体がリアクションするのに疲れたなり……

私の用意したヤツだから!! フツーに大丈夫だから皆さん正気を取り戻して!!
ココアが冷蔵庫から取り出した冷えっ冷えの固まった物体が、やるだけやって戦場から離脱したお鍋コンロと交代する形で中央に置かれる。
特にオリジナリティは発揮されていない、言い換えればとても安心を提供してくれる透明ビジュアルの巨大ゼリーであった。

イチゴのテリーヌ!! 切り分けなくていいですよね、皆それぞれのスプーンで自由に召し上がってください

菜箸に気を遣わなくてもいいんだな……

おお……自由がそこに見えるなり……

いただきまー。……むぐむぐ……うん、戦いは終わったんだなって感じの味がする

分からなくもないけどほぼ何も伝わらない食レポ!

私としてはもうちょっと工夫を凝らしても良かったんじゃなかったかなーって思わなくもない

そんなものを仕込んでいたら貴方に今夜は無かったでしょう

怖い怖い怖い……でも要はちゃんと食べられるデザートにはなってるってことですよね。よし、じゃあダンベルにはよそってあげるー

各々自由にというスタイルだったのでは?

だってそれだとダンベル絶対遠慮するでしょ? ふふふ、ご主人様の作った可愛いデザートを食べるのだー!!
ポンコツココアも、経験を重ねたお菓子作りの腕前は相応であった。
何より、先ほどの地獄との比較が発生するので、何であれこの一品は素晴らしい代物。対比的に純真な甘さをフレッシュに詰め込んだテリーヌは明らかに好評な食べられっぷり。
さっきまでガチの毒味扱いで落ち込み気味だったココアも、その様子ににへらが戻りつつあった。

えへへ、やったよユサさん! ダンベルが私の料理、食べてくれたー!!

テリーヌを料理と呼んでいいかは私基準では微妙だけど、ココアちゃんにしては快挙だよねーえらいえらい

えへへー、私だって活躍する時は活躍できるんだよ、ふふーん!!

(……もしや、もう既に毒味の怨嗟を忘れ去っている……?)

…………
かくして、晩餐は終了。
ココア達は九死に一生を得て、取りあえず2度目のシャワータイムの打ち合わせに入ったのだった。