[8-09]似た温度
あらすじ
「また、憶えに来る」
酷いオチをぶちかました玄武衆編、その放課後。
インサート8は9節をもって終了、さあ最後のアウトプットフェーズへ進むのです!!
スタート!
お待たせしましたぁ……(←本気装備死神)
ぎゃーーータイムアップ来たーーー!?!?
頭領、お時間です。……勇猛な餌諸君を狩るのは次の機会に回しましょうかね
ッ……クソ!! 絶対潰すッ。ピンク髪、お前の言動、忘れねえからな!! 頭領に好かれてるわけじゃねーなら、何の躊躇も要らねえもんなぁ、夜道は誰かと一緒に歩きなァ――!!
…………
最終兵器の到着により、渾沌とした場は結局戦争に直結することなく強制終了。
取りあえずは事なきを得た稜泉学園であった。
……………………。
そして、その日の夕刻。
はぁ~~……(←疲労困憊)
今年一番のフォロー大作業を一通り終わらせたココアは帰路についていた。
玄武衆は撤退したが、頭領の奇行のお陰で玄武衆との関係を疑われそうになったバ会長やタマ、そして自分のフォローに奔走したココア。ちなみにバ会長達は玄武衆に追従して後処理共有へ回った。
そんなわけでココアが何とか学園側の皆の収拾をつけたわけだが、案の定午後の授業は大いに潰れた。色んな問題に発展したのは言うまでもなく、事の発端と言えるココアは校長室にて慣れ親しんだ校長より愛の特大説教。
最後には盛大に抱きしめられ、この日一番の英雄ヤンキーは放課後を迎えた。螳螂之斧ではあったろうが、それでもヤクザ相手に戦い抜いた社会の誉れ。黑稜でも白泉でもココアはこの日ばかりは純粋に讃えられたのだった。ただしダンベルには校長以上に怒られたため、ココア的には疲労感が一番凄かった。
バ会長らは途中ですっぽかした防災褒賞云々の後処理を続けている一方、働き過ぎたココアは強制下校の運びとなった。そんなわけで、WKBがまだ慌ただしい様子はあるにしても玄武衆に怯える必要は一先ず無くなったココア様は、ふらふらとのんびり徒歩で帰っているところだった。
もしかしてパパとママにも怒られる感じかな……ん~、バ会長いっつもこんなアクション起こしてるんだなぁ、改めて格の違いを感じさせられる……
最近は車での登下校だったが、基本的に見慣れた道。
いつも通りに、若干千鳥足で、歩くココア。
……その景色が、突然変わる。
――え?
ココアは、すぐ右の建物と建物の、隙間と表現してもよさそうなほど狭い路地裏に吸い込まれた。
焼ける空が刹那にして遮断され、光少なく臭いの籠もった世界にて。
ココアは建物の外壁に叩きつけられる。
ッ――!?
そして、自分の身体を突然捕獲してきた正体を目と鼻の先に確認する。
…………
(ッ……と、頭領、さん!?)
完全に終わったこと。ココアの中ではそういう気の緩みはあった。
何故なら、頭領の意識に自分は殆ど無いことが判明したから。
タマが目的でしかなかった。その為の中間地点として自分の見た目が利用されたというだけで、タマに辿り着いたならば自分はもう彼女には不要。
そういう恐ろしく我が儘もとい素直な性格をしている故に、興味の無い相手には執着するわけもない――
(で、でも。よくよく考えたら私、玄武衆にも頭領さんにも失礼なこと言いまくった気がする!!)
ジャマだと思ったら部下を平気で蹴り飛ばす人。機嫌を損ねることをインテリ幹部も恐れていたことから、自分の言動で彼女のそれを損ねたのではないか?
今更ながらに、身の危険を感じ始めるココア。完全にノープランパニックで逃げられないその眼を。
頭領はまばたき一つせずにガン見していた。
……君
はぁい!!?
地獄焔と、知り合い?
――え?
頭領が問うた。
それに対し、慌ただしいココアの時間が一気に止まった。
……え……? い、今、何て――
へぇぇぇ……(←セクハラ開始)
ぎゃあぁあああ何ですかッ!?!?
答えを訊かずにココアをベタベタ触りだすウルトラマイペースおさわりング頭領。
……それは赤子でもできる学習手段。
頭領は情報を手より吸収していく。
……似た温度を、奥に感じる。へぇ、そう……うん
ッ……
…………
そして再び、至近距離で見詰め合う。
あ……あの……
……憶えた
え?
ココア、ちゃん。タマ、先輩。憶えた
え……お、憶え……ええ??
頭領は何かをココアから感じ取ったようだが、対するココアもこの距離感でのコミュニケーションで頭領から感じ取った。
どうやら今この暴力的な存在は、何か物騒なことをやろうとする気はないようである。
まず、身の安全は確保できそうなことに本能の速度で安堵を覚える。
すると次に気になるのは――
あの……さっき――
――伏せて!!
ココアが問おうとした瞬間。
大通りの方から何かが横に飛んできた。
ぎゃーーーー!?!?
結果、安心を覚えかけてたココアが大ダメージで地面に情けなく転ぶ。
一方の頭領は攻撃を受け止めたようで、衝撃を地面に逃しながら上手く後退滑走に留めて対処した。
……伏せてと言いましたのに。もっと自衛の技術を磨かねばなりませんね
だ、ダンベル!? 流石に急過ぎるから、もうちょっと避ける猶予をくださいッ
そんな緩やかな精神で対処できる相手ではないでしょう
ココア、はっとする。
考えるまでもなくダンベルは自分を助けるために場に入ってきた。そして、「攻撃」をした。
玄武衆の頭領に。
立場を考えればダンベルの行動は間違っていない。だが、これは大変よろしくない流れを想像させる。
ご、ごごごごごごめんなさい頭領さん、今のはダンベルのちょっとしたお茶目筋肉であって宣戦布告とかそういうアレでは――
…………
――あれ?
……頭領は、とんでもない横槍を対処しながらも、未だにココアのことを見詰めていた。
……私は、憶えるの、苦手
え? あ、そ、そうなんですか……?
だから。忘れたら
ようやくココアを視界から外した頭領、背中を見せる。
そして路地裏の闇へと歩き去って行った。
また、憶えに来る
不穏過ぎる言葉を残して。
……………………
ダンベルのフレンドリーファイアを引き摺りながらも、立ち上がったココアはその背中と先の闇を見送った。
結局聞きそびれた悔やみを胸に抱きながらも。
……少しは。近付いた、よね
きっと辿り着ける。
自分なりの確信の光を何処かに感じながら。
……まずは、大通りに出ましょうか
うん、そうだね。……ダンベル、来てくれてありがと
独りで勝手に下校なさるのは暫く禁止でお願いしますね
家政婦と共に、表の夕焼け空の下へと戻るのだった。
(もうちょっとだけ、待っててね……!! 姉様――)