[8-06]帰ってください!!!

あらすじ

「私は――諦めない。私の周りにある全てを私が護る、手に入れたいもの全部をこの手で掴んでみせるッ」

いよいよ始まる、玄武衆との本番のお時間です。

今回新モブキャラ多くてちょっと苦しいインサート8の6ページ目。

スタート!

女性

ねー、ヨゴレの兄貴。ホントに頭領は、稜泉学園なんて半分お金持ち学園のガキなんて探してたわけ? 頭領がそんなのに興味あるとは思えねーんだけど

ヨゴレ

俺の確信を信用しないの、シュモクちゃん? ……大丈夫、A等部1年、黑稜所属ってところまで分かってれば仕事はそう複雑にはならない。頭領とその子を会わせることを最低ノルマにしつつ……可能な限り上質な”餌”を回収する

シュモク

それやらかしたら、流石にもうWKBも黙ってないと思うけど? ちゃんとその先、考えてるよね?

ヨゴレ

信用しろシュモクちゃん。俺はこう見えて、仲間想いなんだ。……クライアント様も、こんな汚れ仕事をやってのける俺達を蔑ろにはできないさ。……その後の話は後で共有すればいいことだ、今は今だけを考えろ

ヤンキー

兄貴、放送が掛かってたけど、もうこの時点でサツも動くと思うぜ

ヨゴレ

それはその通りだ。WKBは玄武衆の地下ネットワークもある程度把握しているはず、どういう思惑で今から何をやろうとしているのかも早々に推測してくる。時間は掛けない、短期決戦といこう

シュモク

藍澤のお嬢さんをゲットできれば上々!! でなくても兎に角黒い服のガキ共数人掻っ攫っただけでも最高の金額になるだろーさ!! ソレをヨゴレの兄貴に委ねれば、玄武衆はもっと発展しちまうぜ!!

ヨゴレ

勿論1人ひとりに相応の還元を行うさ。ということで、無理しない程度に働いてくれよ。その特攻服は伊達じゃないだろ

ヤンキー

へっ、社会を動かす玄武衆!! いいね最高だね、最高にゾクゾクしちまうよ!!

ヤンキー

うーっし。お前ら、無理すんなよ、黑稜の壁に油断するなよ、その上で――

シュモク

――最高の仕事にり付こーじゃん!!!

ヤクザ達

「「おぉおおおお!!!」」

やってることは完全にヤクザ。

余計な装飾を排したカジュアルスーツ式の特攻服。組織の士気を高める文化は玄武衆にもあり、だからこそ玄武衆が本気である証。

これまでの各地での騒動とは一線を画す、彼らの未来すら大きく揺らす本気の作戦。

闇に魂を売り払った若きヤンキー集団が遂に稜泉の地に足を踏み入れる――

ヤンキー

――ん? 兄貴!!

シュモク

あ?

ヨゴレ

…………

時間は無い。止まることは単なるタイムロス。許されない。

だというのに集団は止まった。先頭する者達が止まったから。

ほぼ先頭で全体のブレインを担っていた幹部の青年は額に手を当てた。

ヨゴレ

……ちょいと、予定が狂う予感がする

ココア

…………

ヨゴレ

早速頭領のお目当てが見つかっちゃうとか

好餌が大量に集まっている校舎はまだまだ先。

だが名目として名の上がっていたピンク髪の幼女らしき者が、もう其処に立っている。

これは彼にとってはあまり予想していないパターンではあった。

シュモク

……お前……覚えてるぜ!! その平和面!!

ココア

…………

シュモク

何も出来ずにボコボコされてたよなぁ!! アタシも1発蹴った覚えあるしッ!!

ココア

…………

シュモク

……おい、何か言えよ? 久々の再会、ってやつだろ貧弱?

1人でこんなヤバいところに仁王立ちしていたココア。

口を開く。

ココア

帰ってください

シュモク

あ?

ココア

帰ってください。ここは、稜泉学園の敷地です。許可されてないお客様は、お客様じゃないので帰ってください!!

シュモク

ッ――

ヤンキー

「「…………」」

ヨゴレ

(この子……この眼)

ココア、揺るがず。

決してその場を譲らず。

真っ直ぐに、声を張り上げて放つ。

シュモク

んだと……? お前何言って――

ココア

申し遅れました、稜泉学園生徒会、玉ノ伍席を務めてます、井伊恋々空です。ですから学園を代表して、私が伝えます

シュモク

ああ!?

ココア

皆さんがいきなり来た所為で、校内で皆がビックリしちゃってます! 怖がってる人達もいっぱいいます! だから、帰ってください

ヤンキー

おいおいおい

ココア

何か用事があるならまずアポを取ってください! それで、許可を貰ってから、入ってきてください!!

ヤンキー

おいおいおいおい! 何かド正論いきなり言ってくるんだが!! 凄えなコイツ、俺達前にしてバカか!? あとその特攻服すっげえダセえぞ!!

ヤンキー

何なんだよ、ネタかぁ!? すっげえ面白えけどさ、こちとら時間がねえんだよ!! チビの真面目に付き合ってる暇、ねーの!! ……ボコる?

シュモク

――アタシは今すぐ暴れてもいいよ。雑魚いのも嫌いだし、生意気な奴はもっとウゼえ。ヨゴレの兄貴が許可するんならアタシが潰すけど?

ヨゴレ

シュモクちゃんお察しだねぇ、そう、この子なんだよ多分。頭領の探してる子。幼女じゃなくてA等部1年なんだけどねぇ。ね、ココアちゃんさ――何となく分かってたんじゃない?

ココア

…………

ヨゴレ

俺達が、君を探してるかもしれないってこと。だから、君は真っ先に俺達の前に姿を晒した。たった1人で……それなら、この学園の被害も最小限で済む。実際俺達は今、相当都合が悪い状態に陥っている

彼ら最大の鬼札である頭領は、彼らにとって同時に蔑ろにできない生命線。

頭領がココアを目的として行動しているのであれば、この時点で頭領がこれ以上稜泉に侵攻する理由が無くなる。つまり、玄武衆という組織としては其処から先は頭領と全く関係の無いアドリブになる。

稜泉という巨大な牙城を攻めるのに頭領は不可欠。だから、結果的にココアは玄武衆全体としてのキャリアプランを破壊しに掛かっているようなものだった。

ヨゴレ

……まあ、引き下がれるわけじゃないけどさ。その辺は今考えるとして、ココアちゃんは附いて来てくれるってことでいいんだよね?

ココア

…………

ヨゴレ

君が一緒に来てくれるなら、俺達はすぐにでも引き返してもいいかもね? 君は、どうするつもりでいる?

ココア

…………

ヨゴレは次の行動を見据えていた。

あまりに早すぎるココアの登場、それを踏まえた上でどれだけの時間を物色に費やせるか? これまで用意してきた計画の根幹に影響があるか?

貴重な今の時間を立ち止まり費やしてでも、念入りに。だからコレは殆ど彼の無意味な質問。

全体の場をもたせる為のいわば暇潰しの会話、どうでもいいものではある。

ココア

行きません

――が、思考を割くべきでないその無意味な時間に、ココアは更に爆弾をぶちまける。

ヨゴレ

……あれ? そうなの?

ココア

玄武衆さんに、附いて行くってことは――私のことを大切にしてくれる人達を、裏切るってことですから。そんなこと、絶対できません!!

シュモク

はああああ?? お前さぁ……過去何やらかしてるか覚えてる? 忘れてるってかぁ??

ココア

……私はこの特攻服に、約束するだけです

ココアは譲らない。

決して手に入れた意志を。

光明は其処にあるのだから、迷うことなく。

ココア

私は――諦めない。私の周りにある全てを私が護る、手に入れたいもの全部をこの手で掴んでみせるッ

その道筋に、立つ。

それがココアが今こんな所でこんな集団と対峙している、たった1つの理由である。

シュモク

非現実は相変わらずかよ、クソ雑魚、ちっちぇえ癖して、ムダに野望だけでけえ!! 何も変わってねえなあ!!

ココア

ワガママ得隴望蜀上等ッ、そんな強くてカッコいいヤンキーに、私はなるんだ!! だから――

ヨゴレ

…………

ココア

――こっから先は、看過しませんッ!!!

全然退く様子のない脆弱な存在。

横に拡がっていた集団は、その真っ直ぐな主張に対し、動揺と呼べるものも拡がっていた。

ヨゴレ

……見違えたねぇ……こいつはまた予想外だ――

シュモク

はあ!? 何言ってんのヨゴレの兄貴、志だけ頑丈ってだけっしょ!!

ヤンキー

そうだぜ兄貴ッ、分からせてやろうぜ。この世の動かし方ってやつをよ!!

ココアは生意気言っているのは間違いない。

それに憤りを覚える者も出てくるのは容易に想像できること。末端の構成員は前に出て、ちっちゃいヤンキーに詰め寄る。

明らかに拳を作って――

ココア

……!!

ヤンキー

威張ってたって何も変わらねえんだよ!! 結局はなぁ、実行できるかが全て――

――振り上げようとした途端。

ココアの目前に迫った第一の脅威は瞬時にして真横へと吹き飛んだ。

ココア

ッ!?

シュモク&ヨゴレ

「「――!!」」

ヤンキー達

「「「!!!!」」」

作戦の始まらない焦り。苛立ち。イレギュラーへの心配。

そういったカオスな雰囲気を、丸ごと蹴り飛ばして塗りつぶす存在。

彼らの「前提」が、遂に姿を晒す。

頭領

……ジャマ

蹴り飛ばされた末端に、一声小さくボソリ。

身長は割とココアとそう大差無い、少女と呼んで大丈夫そうなビジュアル。およそヤクザどころかヤンキーにも見えない、少なくとも構成員のダークな派手さと比べたら平和で質素といえる女子。

だが彼女のその一言で、彼らは行動と感情を一斉に停止させた。

玄武衆は、頭領を勝手に祭り上げて、その頭領の力を利用して各々の野望を展開する組織経営が特徴。それ故に、頭領には本質的に逆らえない。

その歪さを直でココアは感じた。というかそんな最も危険な存在が目と鼻の先に居るという絶体絶命の状況。

勿論こっから先、ココアはノープランである。

頭領

…………

ココア

ッ――

しかし、自分が主張しなければならないことは変わらない。

だからココアは怯まず、立ち続ける。

ココア

頭領さん

ヨゴレ

ッ――!

シュモク

アイツ、怖じ気ゼロかよ!?

ココア

目的は、よく分からないけど。私達稜泉学園が言うべきことは、変わらず1つです

頭領

…………

ココア

帰ってください!!!

後ろの人達

「「(言いやがったぁあああ――!!!)」」

それはこの場の誰もがいっそ賞賛するくらいの、ヤバい発言だった。

頭領の心を陰らせる。それがどれだけの損害に繋がりうるのか。

……ココアとて、それは何となく感じていた。次には自分の心臓がくり抜かれてるかもしれない。

それでも、退かないことを、恐怖に支配されないことを選ぶ以外に考えられなかった。

ここに立ち続けることに疑問があるわけがなかった。

ココアはもう――分かっているのだから。

ココア

(今度は、きっと間違ってない)

頭領

…………

ココア

(これは――私の、私だけの、自慢の道だ――)