[8-05]ココア様ヤンキーで賞

あらすじ

「タマ先輩――やっぱり、私、間違ってた」

褒賞式典を断念したココア様、その昼休みの出来事。

クソ長いですがほのぼのと良い話なので是非ご覧くださいインサート8の5節。

スタート!

バ会長とタマが素晴らしい式典に出席しているであろうその頃。

ココアは普通に昼休みを過ごしていた。

ユサ

生放送とかすればいいのにね

ココア

あはは、そういう感じの式典でもないんじゃないかな。……あれ、ユサさん今日のお弁当どうしたの?

ユサ

? コレだけど(←普通のお弁当)

ココア

――鍋じゃないの!? どうしちゃったのユサさんッ、もしかして体調不良!? 休まないとッ

ユサ

諸般の事情で今日は個性控え目にしてるだけだよー

クラスメイツ

「「…………」」

式典は静か~に行われているようで、バ会長らが現状報告とかしない限りは今彼らがどういう事をやっているのかをリアルタイムに知ることはできないのだった。

ということで、気になっている連中はただ気にするしかない普通の昼休みなのである。最近忙しいココアも、今日は久々にまったりと自分のクラスでお昼ご飯に洒落込むのである。

しかし彼女の机に置いてあるのは1本で栄養的には満足できそうな補助菓子それのみだった。

ユサ

……ココアちゃんこそ、もしかして体調不良?

ココア

あ、いや、最近昼休み忙しくてずっとコレだったから……うっかりいつもの感じにしちゃって、あはは

ユサ

はぁ……ちょっとだけ、分けてあげようか? 私お鍋以外だと小食キャラだからさ

ココア

そんな別腹設定初めて聞いたよユサさん……気にしなくていいよ、正直、食欲無いとまでは言わないけど、あんまりお腹空いてないんだよね

クラスメイツ

「「…………」」

食欲は元気を測るのに案外役立つ指標である。熱や病気など体調面は勿論のこと、メンタルによっても大いに影響を喰らう要素である。

ココアは後者を引き摺っているみたいだった。

ココア

(……ちょっとは、強くなれたというか、マトモな人間に近付いたというか。ツララ先輩達からもポンコツって言われる回数減った気がするし、まぁ成長はしてる、よね?)

――ココアはずっと迷い続けてきた。

迷うということは、正解と不正解の判別ができないということ。

そして正解とは、自らが志している到達点に、最効率で接近する道筋といえる。

現状ココアにはその道筋というのがまるで見えていなかった。

ココア

(それでもまだ、ポンコツというか、貧弱だよね……もし、あの時みたいに。また、怖くて痛い場面に遭遇するとしたら。……そういう事態にならないよう気を付ければいいんだけど……もし、そうなっちゃったら?)

強くてカッコいいヤンキー。それが、ココアのあるべき道筋。

だからココアにとって最大の判断基準とは、その言葉に他ならない。

人生が分かれ道の連続であるならば、これは「強くてカッコいいヤンキーに繋がる道なのか?」を常に考えなければならない。ココアは「姉」を失ってから、ずっとそれをココアなりに実践してきた。

そして――”お前は本当にソレで良かったのか?”――ある日に見つけた道筋の光明は、ある日に見失った。まさに今は暗中模索、ある標を唯一の頼りに探し続ける日々。

――それは孤独で、恐怖であるに他ならない。

男子

……ココア様、ところでなんですが、ちょっとこちらのアイマスクを装着してもらえませんか?

だからココアは、周りの仲間達から成長したと評価される一方で、えげつなく心配されているのである。

この時間も、実はそれを裏返したかのような1コマだったのかもしれなかった。

ココア

え? あ、はい。……えっ、何で!? ところで何で!?(←アイマスク装着)

ココアは何の文脈も無しに、寄ってきた男子から渡された無地のアイマスクをノーウェイトで身に着けた。結構厚めで、全く光が入ってこなかった。

……途端に、足音バタバタ、机と椅子ゴゴゴゴ、明らかに慌ただしくなる教室。

男子

取りあえずテキトウに端っこ寄せて寄せてっ

男子

あれ、これ誰の机だっけ? まぁいいや、後で何とかなるなる!

女子

えーっと……うん、コレですわ。準備できましたわ!

ココア

……え? 何、これ何? 皆、一体何やってるの!? もしかして、久々にココア弄りとか計画してますッ!? 陰謀詭計とか実行してません!?

ユサ

まぁ一言で言うなら、戮力協心というか引縄批根というか、って感じかな?(←拘束器具)

ココア

ぎゃーーーここの皆が一致団結した時はイヤな思い出しかないッ!? 怖い怖い怖い怖い――

ユサに完全固定されて、クラスメイト達は何かと忙しく会場をセッティング。

完全に警戒を解いていた無防備ココア、為す術もなくその時を待たされる羽目に。

……………………。

軈て、その時が訪れる。

ユサ

……さて、と

ココア

あ、あれ。拘束は解いてくれるんだ……

ユサ

それどころかアイマスクも外していいんだよ? 良かったねココアちゃん

ココア

良かったのかどうかはアイマスクを取ってから判断させてもらうよ……

ココア、この学園で変な風に虐げられるのは慣れたものであった。

諦めの苦笑。

本当はブランド戦略で分け隔てられて然るべきクラスメイト達。今度はどんなコンセプトで一丸となっているのかを。

そして自分は今から何をお見舞いされるのかを。

アイマスクを取ったココアは確かめる――

クラッカー

「「ばしゅーーーーん!!!」」

ココア

……え?

――そこに広がる教室の光景は。

クラスメイツ

「「おめでとうございまーす!!!」」

よく見る変態の祭典とかではなく。

手作り感と急ごしらえ感の溢れる折り紙装飾、可愛く多人数で彩ってあろう黒板ポップ、端に寄せられたお邪魔机たち、特に変態挙動はなくただクラッカーを斜め天井へ発射した学友達。

取りあえず黒板にはアートついでに、「授賞式」とか書かれていたので、ココアは方向性については気付き始めたのだった。

ココア

こ……これ、は――

女子

ココア様、おめでとうございます!! 本日、黑稜――ううん、稜泉学園はまた新たな歴史を歩みましたわ!

男子

稜泉学園は、世界を牽引する学園であるべし!! であるならば、そんな我ら人材を護り抜く環境配置もまた世界の模範でなければならない!! 素晴らしい観点、そして素晴らしい実行でした!!

女子

であるならば、それは評価されなければいけません!! 玉席、すなわち学園の代表である会長と副会長が世界よりその証を授与される、それもまた1つの自然な形なのやもしれません。ですが……納得しきれません!!

男子

防災強化のプロジェクトの責任者はココア様であることを我々は皆分かっています。ココア様が、最も授与の舞台に相応しい筈です!! ……それを玄武衆の動向という全く関係の無い要素により見送らなければならないだなんて。これは、理不尽と受け止めるべきです

ココア

……………………

女子

ですから――私達は、今日この時間だけは、ココア様を見倣って”ヤンキー”になることを決めました。仕方ないという現実に、私達なりに最大限、反抗してしまおうと

女子

世界がココア様を諸事情で評せないならば、せめてこの学園でその分、ココア様を褒め尽くしてしまおう。そう皆で、決めましたの

ココア

ど……どうして、そこまで――

ココア、自然と教室の真ん中に立たされる。

全く前触れを感じさせなかった、サプライズ感10割の手作り授与式。

表彰状を手に持つ女子。しっかりとギフトなことになっている箱を持つ男子。

何となく方向性は理解した。だけど現実を受け止めるには、ちょっと処理能力が追い付いておらず、ココアは動揺する。

ココア

いや、だって、このクラス主に私関連で協心戮力とかしでかす事もあるけど、一応はブランド戦略もあるよね!? その辺ホントにどうしたの!?

女子

だってココア様、そういうの全く気にしない御方ではないですか?

男子

さっきも言ったように、今日の俺達、ヤンキーなんで。ココア様の頑張りを讃えられるんなら、普段の垣根の1つや2つ、ガン無視してやりますよ

女子

……ブランドの分け隔てをせず、黑稜白泉関係無く、皆1人ひとりの安全を考えてくださったココア様の忙殺なお姿を、玉席の皆様を除けば私達が一番見ている筈です。ならば――これは、私達の責務です

ココア

……みん、な……

ユサ

ささ。昼休みは有限だから、取りあえずノルマだけは済ませちゃおう!

背中に居たユサがココアを位置調整し次のフェーズへと誘導する。

女子が、その前に立ち、読み上げる。

女子

ココア様ヤンキーで賞。井伊恋々空殿。貴方は――

ココア

え、待って、それホントに防災褒賞?

ユサ

はいはい静粛に

女子

貴方は世界リーディングスクールたる稜泉学園において、あるべき体制と道筋をガン無視して、己の不動の志のままに稜泉の障害と戦い、稜泉の人々を護り、稜泉の未来を牽引しました

女子が、手作り表彰を読み上げていく。

茶番といえば確かに茶番。社会的には何ら有効性の無いイベント。

しかし、ココアに関わる全事象においてこのクラスメイト達は本気である。

だからこそ彼らの言葉は全て本気。だからこそ、これは何の戦略にも覆われない、ココアへの正当な評価。

女子

ここに、貴方は稜泉学園の、強くてカッコいいヤンキーであることを認め、この賞を。――稜泉学園一同より、授与いたします

ココア

ッ――

ココアは表彰状を両手で受け取った。

――それが証明せんとするモノは、ココアにとってあまりにも小さくない存在だった。

男子

おめでとう!!

女子

おめでとうございます、ココア様ぁ!!

クラスメイツ

「「ココア様!! ココア様!! ココア様!!」」

ユサ

皆発作に負けないでー。その前に、記念品授与でーす!

男子

ココ――っとそうだったッ、ココア様、折角ですのでこちらも受け取ってもらえますと嬉しいです!!

ココア

あ、ありがとう……開けて、いいかな?

女子

是非とも!!

記念品が明かされる。

ますます防災褒賞の話ではなくなっているかもしれないが、本質でいえばココアを評するにあたり表彰状よりもこれ以上ないモノであった。

ココア

……ちょ、こ、コレって――

ユサ

ほら、今着てみたら? ヤンキーさん

ヤンキーと呼ばれる者達の中ではもう古風と呼ばれるかもしれない。死語のように墓場に置かれている概念かもしれない。

しかしココアにとっては、揺るぎない1つの理想の域。

――袖を通す。背中に刻む。

全身に、示す。

ココア

と――特攻服!! ヤンキーの勝負服じゃないですか!!

ユサ

今時コレ流行ってるのかなとか思ったりもしたけど、ココアちゃんなら絶対喜ぶと思ったんだよなぁ

女子

案の定ダボダボ!! でもこの先身長が伸びたら丁度良くなるかもと思い、大は小を兼ねる理論で大きめのものを御用意いたしましたの!! あ、でもココア様はこれからも低身長でお願いしますわ

男子

そして特攻服といったら魂の言葉をデザインに落とし込みますよね? そこは、我々クラスメイト一同、1人ひとりが担当し、ココア様に相応しい四字熟語を書かせていただきました!! 雲烟飛動游雲驚竜、ココア様のソレと比べたら拙くなってしまいますが……

ココア

ううん、ううんッ、凄いよ皆!! こんなカッコいいヤンキーユニフォーム、私見たことないよッ!! これが、本当に私の……

ユサ

ココアちゃん以外が着ちゃダメなやつだよ

ココア

……私の、特攻服……

ダボダボの特攻服を身に纏い、その上で両手で全身を覆うように、刻まれた四字熟語達を目を閉じて感じる。

――その道に、四字熟語を勉強してきた時間は切り離せない。

時の土に埋もれることがないように、倒れることがあっても何度でも立ち上がり、目指し続けることができるように。

ココア

(ああ、だから私、四字熟語の勉強続けてこれてたんだな……)

ユサ

どうでしょうココア様ぁ? 凄いでしょ、今泣きそうでしょ? 皆、それを今か今かと待ち続けて写メる準備終わってるんだけど昼休みもそろそろ終わりそうだから泣くなら早くですね

ココア

ソレ聞いて一気に感涙引くよ……あとコレ、絶対ユサさん書いたよね? 七種菜羹とか

ユサ

あれ、バレちゃった?

ココア

全然私と関係無い四字熟語混ざってるの見逃さないからね!! 螳螂之斧って書いたの誰ですかー!!

女子

ああ、プンプンするカマキリココア様もステキですわぁああッッ!!!(←激写)

クラスメイツ

「「あははははは――!!」」

それは――光明だった。

かつて一度見つけ、そして見失ったものだった。

ココア

タマ先輩――やっぱり、私、

と、ここでスピーカーより放送が入った。

ただしそれは昼休み終わりの予鈴とは異なるもの。

そもそも聞き慣れない類いのサウンドであった。

女子

……!! この、チャイムは……?

ココア

新しく導入した、イレギュラーを意味してるやつだよ。防災強化で入れたやつ……

放送

― 学生は速やかに所属のクラス教室へ戻ってください!! 繰り返します、学生は速やかに所属のクラス教室へ戻ってください!! 職員は職員室へ…… ―

ユサ

おっとぉ……?

ユサは察して、むしろ教室から飛び出した。

ココアもそれに追従し、クラスメイツ数名も勢いで続いた。

……廊下の窓より、グラウンドを見下ろす。

ユサ

やっっば……遂に来たか……

ココア

――玄武衆

遠いので細かい観察はできないが、校門の方に、明らかに見慣れない集団。相当の数、100名はいるかもしれない、カジュアルスーツに身を包んだ不審者達。

彼らが何者なのか、彼らが何の為にこの学園に入ってくるのか、全てを皆が察する。

ココア

……うん。もう、迷ってなんかないよ。私は、見つけたんだから――

男子

ッ――こんな時に! どうしてこう、ココア様に迷惑を掛ける絶妙なタイミングで奴らは現れるんだ!!

女子

兎に角、先生方に対応を任せましょう!! 放送の通りに、何よりもピンク髪幼女のココア様を護らないと!!

女子

……あれ?

男子

ココア様の、姿が、ない?

ユサ

え――?