[4-08]頑張れよ

あらすじ

「どうして、今日私を連れてきたんですか?」

KYバ会長、その胸中をココアが知ることはない……。

薄暗い結末のインサート4、ラストの8節となります!

スタート!

ココア

……あれ、そういえば……

バ会長

ん?

ココア

何で今日は、ハコが一緒だったんですか?

そんなこんな。

寝不足なのも忘れてダンベルの小言も忘れて燥ぎまくったココアとバ会長の日曜日の空は既に黄昏れ時を迎えていた。

そんな2人、いや3人は観覧車に乗って、静かに、ゆったりと、空を昇っていた。

自分たちの生活する大都会、櫻前の町並み、この大陸を囲む山脈、その先の大海を椅子から眺めつつ。

落ち着いたココアが、最初の疑問を思い出した。

バ会長

ああ、ココアは連絡先知らなかったみたいだけど、俺は知ってたから。普通にケータイから誘った

ココア

ハコ、持ってないって言うから訊かなかったのに持ってたの? 何だ、じゃあ言ってよー

バ会長

ちなみにソレは俺がプレゼントした

ココア

え、高くないですかソレ? バ会長ボンビーなのに……というかバ会長も持ってたの初耳ですよ

バ会長

そりゃお前やツララの持ってるアルスとかじゃないぜ、ホントに電話するくらいしかやることないヤツ。まぁ電話できるだけ凄いことだよなって思ってる

ココア

あはは、確かに。よくよく考えたら、その場に居ない人と声で通じ合えるって凄いことですよね

バ会長

……だな

ココア

そっか、だからハコと一緒に来たんですね。あ、分かりました、待ち合わせより早く来たの、ハコを引っ張り出した時間が微妙だったんですね!

バ会長

正解。ちょっと早い気もするけど、遅れるよりはいいよなって。そしたらもっと早くココア居るからちょいビックリよ

ココア

んー……えへへ、まあ、やること他になかったから。今日はもう、バ会長と……ヒロくんと一緒の日だってことしか考えてなかったから

バ会長

…………

ココア

……あー、今日楽しかったなぁ……ホントに、楽しかった。これなら、バ会長見倣って無理矢理にでもタマ先輩、誘ったら良かったかなぁ

バ会長

それやると、後でツララが怖いぞ。何で私も誘わなかったって絶対理不尽なことをさ

ココア

あー絶対言いますよね、誘ったけど仕事あるんでしょって言っても絶対聞いてくれないですよ

バ会長

ははは、ホント困ったヤツだよなぁ。タマも、面倒くさいヤツに懐かれたもんだ

ココア

……面倒くさいヤツって、私のこと?

バ会長

文脈的にはツララのことだが、まぁお前も、面倒くさいといえば面倒くさいよな

ココア

むー……多少は自覚してますけどぉ

バ会長

そうなの? それは意外だわ

ココア

そりゃ、私、とんでもない事にタマ先輩を巻き込んで、それで……本当、色々あったじゃないですか。最初の頃

バ会長

…………まあ、な

ココア

でも……すっかり今は、タマ先輩のこと、好きになりました。生徒会室が、玉席が私の……居場所だって思えて

バ会長

そっか

ココア

だから……えっと……何だろうな。……ヒロくん、今日は、ううん今日だけじゃ、なくて……

バ会長

……うん

ココア

今日まで、いっぱい……最初に、私を、生徒会に……誘ってくれて……私、ね……

バ会長

……………………

ココア

…………――

バ会長

……ココア?

ココア

すぅ……すやりすやり……――

ココア、観覧車というリラックス空間にて負債として重くのし掛かっていた疲労にここで負ける。

隣の男子の腕を枕に身体を委ね、静かに寝息を立て始めた。

バ会長

……そりゃ、あんだけ遊びまくってたら、疲れ果てるよな。あんなに楽しそうにされたら経営側もニッコリだわな。ホントに良い客だよ、お前は

ココア

すやぁぁぁ……

バ会長

……いつだって、お前はそういう奴だ。ところで

少女に右腕を枕にされたバ会長、向かい席に目を遣る。

バ会長

何でずっと黙ってるわけ?

ハコ

……私なりに空気を読んでたからですが。今日一日ずっと

バ会長

嘘つけお前、ココアに次いで燥いでただろ何だかんだ文句言いつつもさ

ハコ

黙るなり

ハコは良い夢見てるに違いないココアの寝顔をテキトウに眺めながら、言葉を紡ぐ。

ハコが今日一日ずっと、抱いていた疑問。

ハコ

どうして、今日私を連れてきたんですか?

バ会長

ソレ、さっきココアが質問してなかったっけ

ハコ

いいえ問いの本質がまるで異なります、いや……もしかすれば本当に同じ問いなのかもしれませんが、だとしたら貴方は真面目に答えてない

バ会長

……つまり、どういう事を訊きたいわけ?

ハコ

私を、いや第三者を、今日無理矢理にでも用意したその価値は何なんですか? 貴方とココアだけでも充分に楽しい時間になったでしょう

バ会長

……それは、微妙な線だと判断してたんだよ

ハコ

微妙――?

バ会長

案の定、ダンベルさんが最初見張ってただろ。超の付く令嬢が男と2人で遊園地なんて、個人の休日として周りが認めてくれねえよなって

ハコ

……私はコレの休日のための道具ですか

バ会長

お前だって楽しい休日になったろうが、オマケに服までしっかり買えてよ。随分金持ってるみたいじゃん、仲間だと思ってたんだけどなぁ

ハコ

論点をずらすべからず、問いは全て消化されてません。貴方は――

バ会長

ただまあ、もう一つ大事な理由があってな

ハコの追及の目から、バ会長は隣の。

この日をひたすら純粋に楽しみ切った、ココアの頭へと視線を移した。

ココア

ぐぅー……

バ会長

……苦手なんだ

ハコ

…………

バ会長

こんなにも真っ直ぐで、こんなにも今一点集中して生きてる女の子の時間をさ。自分独りで受け止めきれる自信が、無かったんだ

ハコ

……要するに、腑抜けたんですね

バ会長

だから本当、ありがとなハコ。今日居てくれたのは、死ぬほど助かった

ハコ

……ココアは、これで良かったんでしょうか

バ会長

模範解答は知らんけど、俺は割と確信して言えるよ。今日をコイツは、完全に過ごし切ったんだって。どう見ても楽しかったって顔してるだろ

ココア

むにゃむにゃ……えへへ、ヒロくん、ダメだよぉ……ソレは…栗じゃなくてただのタワシ……

ハコ

……まあ、そうでしょうけど

バ会長

今その時を全身で示す、そういうお前の真っ直ぐなところを。俺は必ず守るからな。ソレがお前の、誰も持ってない唯一無二の才能で、価値だ

眼前の幸せに眠るココアの頭を。

少年は一方の空いた左手で、ソッと、撫でた。

バ会長

――”頑張れよ”、ココア