[1-10]将来に紐付けて復習の力を

あらすじ

「……リソースの不足……ココアの為の環境があまりに脆弱」

玉席の2人が頭の良さを見せつけます。

次回でプロローグはラストです! あともう少しお付き合いくださいな今回その10。

スタート!

ハコ

それだとココアは絶対合格できません。頭に入るわけがない

ココア

え? また罵倒?

ノートを見比べてみても、ユラとココアの記録の方法は一致していた。ココアがユラのやり方を真似ているのである。

……それこそが見落としてはならない違和感。ハコは戸惑い無く指摘する。

ハコ

ユラは並みでない学才を持つ故に、モノを頭に落とし込む為の手段として今、筆記を択んでいる。違いませんよね?

ユラ

……なるほど。君の言いたいことが分かったよ。確かに、これは重大な問題だ

ココア

え……え?

ハコ

然り。貴方はそれで構わないでしょう、しかし一方のココア、学才諸々をかなぐり捨ててこの世に生まれ出てきたココアがノートを作ったところで、それはノートを作る為のノートにしかならない

ユラ

自己目的化を招きかねない。一旦この、頭に花畑寄生してるとしか思えない天性のぬるま湯お嬢でも学習の効果が期待できるような手段が無いか考えた方が良いのか……

ココア

そろそろいじめ相談センター探しますよ私?

ココアは鉛筆も手放してさっきのハコのようにふて腐れ体育座りにチェンジした。

そんな弱者は放置して賢い側の2人の話が勝手に進展してゆく。

ハコ

少なくとも、ココアは1度の読書や筆記練習でわずかな既知観をも手に入れること希望薄かと

ユラ

復習前提、ということになるのか……私はあんまりやらないのだが……

ハコ

凡人の仕様を考慮できない教師は総じて教師として低品質と言わざるを得ません天才にソレを求めるべきかは別問題ですが

ユラ

天才のつもりは断じてないが。……というか、君こそ天才の部類じゃないのか? 色んな意味で

ハコ

私は海賊王になる器を有する女ですが残念ながら知能について他者と比較して擢んでている感覚は持った覚えもありません故に学び得たことは幾度となく振り返ることを重要視します

ユラ

つまり、復習の方面では君の方が語れるものも多いということか。といっても君、Ⅰ秒で4ページくらい読んでるところを見かけることがあるが、まさかソレをココアくんに提案するわけじゃないだろうな?

ハコ

この期に及んで私を空虚に天才へと仕立て上げる真似は誰に対しても利益を被らない従って今すぐ撤廃すべきです、速読の技術は慣れれば誰でも習得できる類いの技術でしょう但しココアは別枠ですが

ココア

超のつく早口でも悪口はしっかり聞き取れるものなんだからね……! そんなに他人のことバカバカ言ってたらいつか天罰の雷がゴロゴロするんだからね!! ハコ妙案お願い!!

ココアはハコに縋り付いた。

この程度の自尊心を据え置くのはお茶の子さいさいなのである。

ハコ

うわぁ……(←侮蔑)

ココア

あ~ハコの友達への容赦無い見損ないビームが頭に突き刺さるぅ……

ユラ

私は個人的に君のそういうところは嫌いじゃないよ。少なくとも黑稜のチンケな連中よりはずっとな……

ハコ

ココアも見た目からしてチンケなり

ココア

身長のことは言うなぁ~……! それでハコ様、私めはどうしたらいいでしょう!

ハコ

……今ココアを最も苦しめているモノ、それは漢字そのものの未知っぷりに違いませんよね? ココアがしっかり覚えてる漢字なんてせいぜい20個ぐらいでしょう

ユラ

勉強してるんだから、未知のものと接触するのは当たり前じゃないか

ハコ

だからユラは別人種なり、何の参考にもならないです。動物は未知を恐れるモノ、原始に近いココアはより本能に基づき未知を嫌がっていますコレは確定的ではないでしょうが普段の姿から確信と言葉を付け加えてもいいです

ココア

原始に近いは聞き捨てならない気がする

ハコ

更に抑も今取り組んでいるのは何らかの概念ではなく文字そのもの従ってより日常の枠へと落とし込み手足の如く使いこなせる程の当然な要素に加えてあげる時間を多く割くべき、ほぼ確実にこのままでは将来朽ちるのみのココアの生存確率を上げるにはこの資格勉強の時間すら将来に紐付けて復習の力をここで素養することが私なりの提案の核となります

ユラ

君いつも思うがもうちょっとゆっくり喋りたまえよ。まぁ言いたいことは聞き取れた、その観点について私も同意しよう。単なる漢字の勉強だけに収穫を絞るのは、道楽に入ってる私は兎も角として、もっと勉強すべきことが他にある筈のココアくんにとって愚の極みなのは想像も容易だ

ココアは携帯でこころを相談できる場所を検索し始めた。

ユラ

ではその提案の具体的な内容を聞こうか

ハコ

まずは学ぶべき……この四字熟語辞典に限定するならば、最高レベルの難度に定義されているモノをリストアップしてその漢字および四字熟語に対する未知の度合いを希薄化させる事が必要。四字熟語を書いたカードでも作成し、そのカードを暇な時間そして日数をかけて何百と視界に入れること当然コレは一例でしかありませんが全てにおいて復習を主役とすることで難漢字に対する既知観そして暗記へ繋げる自信を素養しココアの勉学に対する姿勢とセンスについてもアプローチする、こういった方針を採用すべし

ハコの相手無考慮一息マシンガン演説を、既にメンタルがハニカム状態のココアの代わりにユラが一身に受け止める。

そして噛み砕き……整理した。

ユラ

……少なくとも一つ、君の提案からは問題が検知できる

ハコ

問題? 何でしょうか? たった今用意した言葉故に粗い部分もあるのは承知ですがデメリットは極力排し将来まで見据えた多量のメリットが私の眼には映りますが何処に問題があるでしょうか

ユラ

尋常じゃなく時間を要することだ。まぁ、抑もⅢ種の内容からしてコスト大なのは避けられないんだが。特に、君のそのやり方を実践する為の環境構築を、基本的に外交と習い事でクソ忙しい黑稜生が1年以内の合格を見据えたスケジュールで全うできるとは私は想像できない

ハコ

……別にいいではないですかそんなもの合格できなくとも、というかそうですソレよりか授業に焦点を当てるべきでしょうその中で先のコンセプトを取り入れて時間を割くべきでしょう、何やってるんですか賢い貴方が附いていながら

ユラ

ソレを言われたらご尤もなんだが、白泉で遊んでる君には分からない黑稜ならではのアイデンティティ要件があるのさ。それに、ココアくんは常識では動かないからな

ココア

私、もう割とキャンセルは利かない状況にあるから! しっかり頑張らないとダンベルに殺されるから!!

ユラ

自業自得なんだがな……。やはりこの謎い資格はテキストを定義してないのが大きい。少なくとも、ココアくんなんぞがいきなり挑んでいい領域ではない難易度だ

ハコ

……リソースの不足……ココアの為の環境があまりに脆弱

ココア

えっと……それで今、何に悩んでるの?

天然問題児の当人のために1度この状況をまとめるならば。

「何から手を付けるべきか」という大まかな道筋はユラによって示された、そこはOKだとするが……。

膨大、そして文字という次元で未知なのに対して「1年以内の合格」を本気の目標に設定したうえで「どうやって勉強していくべきか」という現実的な手段に、ユラは自らの資格勉強に対するコスト配分の経験を用いるも苦心している。

そしてユラは相当に勉学センスが出来上がってる一方でココアの頭はクレヨンで描かれたお花畑。この雲泥レベルの個人差もサポーターユラにとって悩ましいものであるのが発覚。

何だかんだ言ってもココアも令嬢。暇な時間は白泉の学生に比べて遙かに制限されている。そんな中で、ココアにとって効果的な勉強方法とは――?

ココア

えっと……何か。ほんとすみません……?(←理解しきれてない)

ユラ

ホントだよ君。何でこんなになるまで家は放っておいたんだ。……匙を投げてるのか?

ハコ

……まあ。横から口を挟みはしましたが私にはどうだっていい事であるのは間違いないので勝手に足掻いてくださいツララも引き際を見誤らないことを忠告しておきます、ということでいい加減剥がれてくださいココア鬱陶しい

ココア

ハコそんなこと言わずに~~(泣) 助けてハコぉ~~復習のプロ~~(←腰にしがみつく)

ハコ

ええいっ、邪魔です鬱陶しい涙液を付着させるな……! ココアなんぞを助けて私に何のメリットがあるって――

ココア

うぅぅ……そうだよね……ごめんねハコ、あとありがと貴重なアドバイス……

ハコ

――あ……

ココアは剥がれた。

そして、大袈裟にもガッツポーズを決める。

ココア

……よし! 頑張るぞ!! 結局、どう足掻いても辛い旅になるってことだもんね。折角あのハコが助太刀してくれたんだし、やる気出さないと!

ハコ

…………

ユラ

君はホントに浮き沈み激しいな。見てて飽きない。そうだな……じゃあまずは、敵を知ることから始めよう

ココア

敵を知る?

ユラ

無策闇雲に出てくる漢字を捌いていても終わりが見えないだろう? それは賢くないと海賊王のご指摘だ。本格的なことをやり始めたら間に合わないから、この放課後はまず軽めにリストアップをしてみよう。高難度設定されている四字熟語がどれだけあるのか、全体を俯瞰してみるんだ

ココア

分かりました! やり方はツララコーチに、お任せします!

ユラ

ツララゆーな。……私のやり方では、君を上手く導けないかもしれないんだがな

ココア

闇雲よりはマシってことですよね? えへへ、居るだけで本当に頼もしいんですよ? それだけは事実ですから

ユラ

はいはい。乗りかかった船に君一人を放置することだけは、やめておくよ

ハコ

…………

道はあまりに不明瞭で、広大で、その旅路は端的にいって無謀。

ココアの戦いは早速、先輩を巻き込んでピンチなのであった。

そんな騒がしい2人を……距離置いて椅子に体育座りのハコは、チラチラ眺めていた。

ハコ

……………………