[1-7]私も受けるに決まってるだろ

あらすじ

「君の効率を管理するし、君の勉強を支援する。その為には、私自らも経験値を持ってなきゃいけないだろう?」

ユラ先輩、良いところもあります。

プロローグはあと4ページぐらい続きます。こちらはその7です。

スタート!

盟約締結から翌日。その放課後である。

ユラ

……で、実際に君は何の資格を手に入れるつもりなんだ? 察するに語学か

ココア

レコンキスタエクスプレサーです!

ユラ

聴いたことないんだが……

ユラは、昨日先輩に言われた通りにココアが持ってきた概要資料を確認した。

ユラ

存在すら怪しい詐欺いの検定に見えるが……君、さてはⅢ種なのも含めて字面の雰囲気で決めたな?

ココア

どうしてそこまで分かるんですか? 流石プロ!!

ユラ

君の性格を多少なり分かってるからな……

ユラは先が長いことを覚悟した。

ユラ

……これは、思っていたよりもえげつない試験範囲だな……

ココア

ツララ先輩でも難しいってことですか?

ユラ

どうだろうな。私は何というか、実用的な資格を好んで選んできたから、端的にいって趣味的な検定にはあまり目を向けたことがない。持ってるには持ってるがな

ココア

へぇ……

ユラ

しかし語学であろうと趣味系であろうと、そして実務に直結するビジネス資格であろうと、テキストというのはちゃんと定義されているものだ。たいてい、その検定の主催者が専用のものを用意している。だから基本的に舗装された山道を見つけるのに苦労はしないものなんだ。だが……

ユラは机に並べられた「テキスト」達を見回す。

昨日、ココアに全部持ってくるよう言っておいた、ダンベル購入の書籍一式である。

それはほぼほぼ全て、辞典であった。

ユラ

……この新出の検定は、特定のテキストを用意してないどころか定義すらしていない。マニアックなやつを出すとしか言ってないんだ。難漢字の表現と限定しているから、漢字辞典関係を用意してくれたみたいだが……

ココア

正直持ってくるだけでも苦労しました……重かった……

ユラ

だろうな。これでは道ではなく山そのものを渡された気分だ……そういう点で、私の経験が活かされるかどうか雲行きが最高に怪しくなってきた

ココア

そんなッ!? ツララ先輩ですら手詰まりなんですか!? そんなの、一体どうしたら……

ユラ

……………………

……。


…………。


……………………。

次の日。

この日もメンバーの集まりが悪いのだった。ユラは生徒会室に入った。

ユラ

ん……?

するとまず視界に映ったのは、棺桶だった。

基本的には地に埋められるか海に沈められるかする棺だった。

ユラ

いや、燃やすというパターンもあるか

ならば燃やしてやろうか、という考えもよぎったユラだが、まずは中身を確認してみることに決めた。

ユラは棺桶を開けた。

ココア

すぅ……すやりすやり……(寝)

するとそこには、ちまちまな姫様。

教科書やらお弁当やら多量の辞書やらに囲まれつつ、ぐっすり眠っていた。

それを確認してユラは棺桶を閉じた。

ユラ

よし、燃やすか(←マッチ)

ココア

――!!!

今度は勝手に棺桶がパカッと開いた。というか中の女子がガバッと起きた。

ユラはマッチ棒を箱に戻した。

ユラ

なんだ、起きたのか。……つまらん

ココア

何かとんでもない悪寒が襲ってきたので……そういや以前ハコに火を付けられたことあるなって唐突に思い出して……

ユラ

君もハードな放課後を送ってるものだな

ココアは棺桶から出てきた。

ちなみにその棺桶はココアのお気に入りのカバンである。

ユラ

……というか君のオシャレセンスぶっ飛びすぎだろう。なんでソレがバッグ代わりになるんだ?

ココア

そうですか? でも便利ですよ? お昼寝もできるし空調管理もしやすいですし。そんでもって、鎖をジャラジャラデコレートすれば、ほらヤンキーっぽい!

ユラ

……まあ、個人のセンスを深く追究はすまい。しかし辞書は昨日同様に一通り持ってきていたんだな。丁度良い

ユラはココアの棺桶から一冊の辞書を選び取った。

四字熟語辞典である。

ユラ

……うん。矢張り君のところのお手伝いは良い選書をしている。このバカに対して些鞭が甘くないかと思わなくもないが……

ココア

あれ? 今平然とバカって言いました?

ユラ

見たまえココアくん、この四字熟語辞典には一つ、基本的な同カテゴリーの辞典には無くて良い機能が存在する

ココア

へ? 機能?

ユラ

その四字熟語の「難易度」が設定されているんだ。そしてその基準は……構成している漢字に難しいものが含まれているか否か、だ

ココア

あ、本当だ! ランク分けされてるんだ……ちゃんと見てなかった……

ユラ

我々の目指す山はレコンキスタⅢ種――難漢字表現に特化した死語の使い手。つまり、日常的にまず使われないであろう漢字、すなわち常用漢字外の漢字を使った表現に限定される!

ココア

……常用漢字って何でしたっけ?

ユラ

常用漢字すら覚束ない君はまず常用漢字をしっかり覚えてやるべきな気もするが、それは据え置こう。Ⅲ種において最も優先して勉強すべきはこの四字熟語辞典においては最高難度に設定されているモノ達というわけだ

四字熟語辞典を机に置く。続いて、ユラはもう一冊の辞典を持ち上げる。

ユラ

故事表現については、どうやら難易度設定されてるようなものは見つからなかったみたいだが……実は四字熟語と故事表現というのは密接な関係にあるものが多くてな

ココア

密接?

ユラ

「殷鑑遠からず」という故事表現がある一方で、「殷鑑不遠」という四字熟語が存在する。これは勿論、同じ背景から生まれ出た同じ表現ということになる。こういうのが割と多いことが分かった

ココア

な、なるほど

ユラ

加えて、難漢字であるほど表現としての使い道は細い……まぁだからこそ常用外の難漢字にカテゴライズされてるわけだが、そういうやつの使い道があるとしたら結局は四字熟語や故事表現、そしてその出典元となるエピソードの引用ぐらいじゃないかと思ってな

ココア

な……なるほど?

ユラ

あーつまりだ……私たちはまず、この四字熟語辞典から始める。そして難漢字を含む故事表現についても勉強していく。該当範囲の定義が曖昧である以上明確な結論は出せないが、コレが私の掲示する最効率だよ

ココア

…………――なるほど! 分かりました、近道なんですね!!

ココアは理解をすっ飛ばして大事なとこだけ拾った。

ユラ

さて、そうと決めたら、さっさと勉強するぞ。……私も同じ物を買うが、今日はコレ一冊を共有だ

ココア

……へ?

ユラ

何だ?

ココア

どうしてツララ先輩が、ノート出してるんですか?

ユラ

勉強するからに決まってるだろう。……過去問なしに1発で受かる自信は皆無、大方半年、マックスで1年か。ふふ、この歳で道楽か?

ココア

え? ……え??

ココア、違和感を感じ取る。

サポーターのユラのやる気に認識が追い付いてないのである。

ココア

えっと……ツララ先輩が、勉強する必要はなくないですか? だって、あくまでサポートってことで。私の効率とかを管理してくれるって感じなんじゃ――

ユラ

ん? 何言ってる、私も受けるに決まってるだろ君と同じヤツ

ココア

何言ってるんですか!?

ココア、認識が追い付く。と同時に驚嘆する。

ココア

え、受ける? ツララ先輩が、レコンキスタ検定やるんですか!? 何故に!?

ユラ

そんなに驚くことか……? まあ、結構な代償だとは思うがな。しかし私はもう卒業まで暇潰しの気分でいるんだ……その時間をどう使おうが、たいしてデメリットにはならなかろう

ココア

そ……そういうもん、ですかね

ユラ

ああ。それに、1度口約束したからな、君の助力となる。君の効率を管理するし、君の勉強を支援する。その為には、私自らも経験値を持ってなきゃいけないだろう?

ココア

! つ、ツララ先輩……!!

ユラ

私の数少ない、学友と認めてもよい君だから、私は盟約を交わしたんだからな。盟友として、できることはやってやる。だから……君も私の最低限の期待を裏切ってくれるなよ

ココア

あ、有難うございます……ホントに、本当に心強い仲間です……私頑張ります!! モチベもすっかり回復してきましたよ、ツララ先輩――

ユラ

ああ、あとここまでやってやるんだから君絶ッ対、タマくんと私の関係を進展させるんだぞッ、命令だからなッ分かってるな!!!

ココア

――あ、モチベが死んでいく……そういえば私ストーカーの手伝いしなきゃいけないんだった……

どんどん後に引けなくなってゆくという意味で、ココアは前進を手に入れた。

色々な想いを抱きながら、取りあえず鉛筆を持ってノートを開き、2人で辞書を眺めてみるのであった――