[1-9]ココアは絶対合格できません
あらすじ
｢こんなに頑張ってるのに、何故にココアのような低品質で低知能で低身長な惰性金持ち嬢しか寄ってこないのですか……｣
海賊王を目指す少女ハコちゃんの素の姿……。
何だかココア様が性格的にだいぶマシに見えてくるプロローグその9。
スタート！
――話すら聴いてくれませんでした……
うわ、もうスイッチ入った……
ハコは扉から入って10cmほどの場所に膝を曲げてうずくまった。
何故？ 今日の私は心機一転までして、髪飾りも海賊王仕様にして、制服も少し破いて海賊王の荒々しさを演出できていた筈……なのに聴衆を捕まえる段階すらクリアできないとはコレ如何に……
うわ、ホントに制服破いてる！ 背中バックリじゃん勿体ないハコ！！
何故海賊王の魅力が伝わない――？ いや、抑も海賊王の話を聴くことすら何やら拒んでいる様子が……もしや黑稜の屑どもが何か吹き込んだのか――
ハコ、取りあえず椅子に座ろ！ そんな頭床に近付けたら髪が地面にくっ付いちゃってばっちいよ、あと頭に血が上ってクラクラしちゃうよ
ココア、暗くなった海賊王を椅子に運ぶ。
む……ベタベタ触りすぎですココアっ。気持ち悪い、あと臭い、明かりが強すぎます――！
え？ 照明普段と違う？
昨日一部設備を取り換えたろう？ お節介な業者の定期契約に則ってな
ツララ先輩、先来てたんですね。ああだから、電球ちょっと強めなんだね……私気付かなかったよ
そこのコミュ障海賊王が気に障りすぎなだけだろう？ そんなに明るいと感じるなら自身の根暗さで中和したまえよ
私は海賊王ですから根暗であるなどあり得ずその発想を用いるならばあり得ない虚実を生成してでも他人を悪く言うことで暇を持て余す氷条参席の性根の暗さを利用すべきでしょう
……ほう？
なんですか？
はーいそこまででーす尋常じゃなくギャップの激しい方々ケンカやめてー！！
ココアが唐突な火花をシャットアウトしたところで、ハコはバッグからケースを取り出し、開けて眼鏡を取り出した。
ついでにノイキャン入りのワイヤレスイヤホンをセットした。それから靴を脱いで、椅子の上で体育座り。
この生徒会室における、海賊王ではなく、ハコの普段の姿が完成した。
どいつもこいつも、全く解せぬ。おかしいなり……
あはは、相変わらずハコは空回ってるなぁ
こんなに頑張ってるのに、何故にココアのような低品質で低知能で低身長な惰性金持ち嬢しか寄ってこないのですか……
あっ、身長のこと言ったー！！ そういうとこだぞハコー！！ いいもーん、そろそろヤンキーっぽく身長のびーっと進化する予定だもーん！！ ハコとかすぐ置き去りにしちゃうもんね！
いや君もっと激昂すべきところあっただろ他に色々
っと。ハコに附き合ってる暇ないんだった。私も勉強しないと……
そうだぞココアくん。何で私だけやってるんだ、もう私は100は覚えたぞ四字熟語
ええうっそう！？ ツララ先輩ほんと学業だけは憧れます！
ボールペン舌に刺すぞ
……？
海賊王活動で荒んだ心を落ち着けていたハコは、空いたリソースでココア達を眺めてみた。
というかココアが書籍を開いている光景を見た。
は……？ これは、悪夢、幻覚……？ 何故ココアが本を読んでいる……？
何で私が勉強してると悪夢なのさ！！
まぁやっぱり引っ掛かるよな……ココアくんが学業してるところとか正直慣れる気がしない
私がおバカだということはもはや一種の価値観に仕上がってるんですか……？
折角勉強する気になってたのに心ない言葉でメンタル大打撃を喰らったココアはノートに突っ伏した。
その後ろから、靴を履いたハコがココアの教材を盗み出す。
四字熟語辞典……？ 何の因果で
因果なんて大袈裟だ、単なる自業自得というか……まぁ無理矢理にでもやってもらうがな
全然覚えられないです～……漢字の勉強ってこんな難しかったんだっけ～……？
むしろ君にとって簡易レベルの勉強ってどんなだ？ 七の段か？
しちしち49でしょ！ それは死ぬほど頑張って覚えましたよ！！ 過剰にバカにしないでください！
君の上限が垣間見えたよ……何て言うかもう、いっそ哀れだな……
……ココアが辞典を開いてる事ほど驚嘆には至りませんが、ユラがこの場所で勉学しているのも珍しい光景です。というかユラも同じモノを読んでるではないですか
えっとね、これは色々あって――
これまでと大体同じ要領で、ココアはこれまで数日の展開をハコに解説した。
……………………。
……時間の使い方が狂ってるでしょう。何がおかしいって、何の取り柄もなさそうな検定をフィーリングで択んでるところとか……
もうやめてハコ、私勉強する前から心が蜂の巣……(←泣きそう)
何の取り柄もないことないだろう？ 一応教養にはなるだろうし、何の取り柄もないと言えば寧ろ君の海賊王専攻がまさにそれだろ
……………………
ハコは椅子に戻って体育座りの膝に顔を埋めた。
おぉおおおおハコ泣かないで！？ 少なくとも寸前だった私より先に泣かないで！？ メンタル崩壊ジェット過ぎるでしょ！
君は他人の心配してないでいい加減ちゃんと勉強に入りたまえよ。今日で30は覚えてもらうぞ
ひいぃいいい！！ 重圧ぅ……！！
…………
ハコは暫く、ようやく頑張り始めたココアの勉強姿を眺めていた。
やっていることは大体ユラと同じようなことである。読んでみて、書いてみて、落とし込む……。
それを繰り返す作業。エリート中のエリートが魅せる業。
……いや、それだとダメに決まってる……
ん？
ユラ、それだとココアは絶対合格できません。頭に入るわけがない