[1-6]盟約を交わそうじゃないか
あらすじ
「その観点でいって、君は甚だ愚かな登山をやっている」
氷条の姫君、その素顔とは……。
この人が居なかったらこの作品は書けませんよ、なプロローグその6。
スタート!


何でやねーーーーーん!!!

いきなり何ですか!!?
璧玉ノ間、すなわち生徒会室に入ったところで最高令嬢ユラは思いっ切り嘆いた。
隣のココアは突然の大音量に飛び上がって反応する。

えっつまり今日タマくんと会えないのか!? 何の為に今日一日やり過ごしたと思ってるんだ! どうしてココアくんの顔なんぞ見に来る為だけに璧玉に立ち寄らなきゃいかんのだ!!

んなこと私に言われましてもッ!! あとストレートに失礼!!
すぐそこにあった椅子に崩れるように顔を座らせる。


……あ、何だかこの椅子からタマくんの気配を感じる……もしかして昼休みにこの椅子で作業してたのかな……

だとしてももう残り香も消えてますよ!! ちょ、やめてください誰も見てないからってはしたないですよ! さっき私にブランド大切にしろとか説教してたのはどこの誰ですか!!

そんなモン全力の建前に決まってるだろ……私がどうして君なんぞの将来を心配せねばならない

なんぞって付け足すのやめてくれませんか……?
仕方ないと言わんばかりのため息をつきながら、ご執心の椅子にどかっと浅く座って背もたれにもたれまくり足を組む。
そのさまは、とても氷条の姫として黑稜の者たちが敬いを獲得しているとは思えない摧けっぷりだった。

相変わらず、表と裏のギャップが半端ないですねツララ先輩……

ツララゆーな。周りが勝手に勘違いしているだけだ、こちらは演者のつもりもないのにこの程度で騙される方が悪い

いやホント、がっかりですよ貴方には……
自分のクオリティを棚上げしつつ、ココアはくつろぎ始めた先輩を見下していた。
――氷条の姫は、言うほど神聖ではない。
その真実を知っているのは、当然といえば当然だが、自分の手指にて数えること容易いほどしかいない。この学園では身近な存在といえるココアはその一人だった。

その癖、能力については嘘偽りないんだもんなぁ……タチ悪いですホントに

私は自分が非凡だと思ったことはないよ。君らが凡人過ぎるだけだろ? うふふふ(←盗撮写真眺める)

いえ、私たちがどうのこうのじゃなくて、貴方は間違いなく非凡です悪い意味で……盗撮写真は没収しますね

あ、コラ

うっわ……
ユラから一眼レフを奪ってその写真を確認する。ココアは一段この先輩への見損ない度を上げた。
その履歴はソート分けをするまでもなくひとりの少女のカメラ目線でない自然な姿がテーマになっていた。
要は無許可なのである。故に盗撮なのである。

待て待て待て削除はやめろ、今日の私の栄養源っ

今なら若気の至りで済むじゃないですか、犯罪歴に進化する前にタマ先輩から自立しましょうよ……はぁ
悪質なストーカーの一歩手前に陥っている先輩に一眼レフを返して、頭痛を覚えながらココアも自分の席に座った。
先述の通り、既にココアは荷物をこの空間に置いていた。どうしようもない先輩のことは放っておいて、テキストを開いた。

……ん? 何を勉強しているフリしてるんだ?

フリじゃないんですがっ。見ての通り、辞書ですよ辞書。今ちょっと、訳あって漢字の勉強してまして……うぐぐぐ、[い]がいつまで経っても現れない……

うわ
椅子から立って、不勉強な後輩の珍しすぎる姿を後ろから観察してみたユラ。
しっかり分厚い漢字辞典の漢字ひとつひとつを、そして一例としての熟語リストなどを綺麗にノートに模写してるのを見て頭を抱えた。

うちのお手伝いおよびクラスメイトと完璧同じリアクションしてどうしたんですか?

どうしたはコッチの台詞だ。君の成績が芳しくないのは普段の姿を見てて予想に難くないが、漢字の勉強をするにしてもどうして漢字辞典の模写なんぞをやってるんだ

模写じゃないです。資格の勉強ですよっ

はあ?
ココアは自分の新たなヤンキーステップアップチャレンジについてざっくりとユラに説明した。
…………。

……君のところのお手伝いさんに同情の念を送ろう……
ユラは頭痛一歩手前に追い込まれていた。

な、何でですか?! 私見ての通り頑張ってるじゃないですか!! ぶっちゃけ既に心折れそうだけど!!

とっとと折れてしまえそんな無謀で意味価値不明なヤンキーチャレンジ

必死に頑張る後輩になんて血も涙もない言葉をッ

どんだけ血も涙も滲む努力を重ねようとも、資格を取れなきゃ何の意味も無いだろう結果が全てだ。その観点でいって、君は甚だ愚かな登山をやっている

へ?

言うなれば、折角登頂ルートとして舗装された道があるのに、わざわざ山肌をとぐろを巻くように制覇しつつ山頂を目指してる感じだ

あはは、何ですかソレ。バカっぽいじゃないですか

うん(←肩を叩く)
ココアはお勉強についてはフリでもなんでもなくおバカなのである。絶望的に経験不足なのである。

ツララ先輩は、資格とか持ってるんですか?

黑稜の学生でむしろ資格実績1つも無しとか存在するのか? あ、目の前に居るか(←財布の中見せる)

うっわ証明カードだらけじゃないですか!! 資格取得のプロなんですかもしかして!?

プロのつもりはないが、まぁ暇潰しがてら私自身のブランド補強のために結構やってきたからな……「効率」は見極められるようになってる筈だ。その経験が、君の努力はクソ過ぎると叫んでる

グッ……経験者のオピニオンに、何か反論などできるはずもない……ッ

流石、後継者という惰性だけで生き残ってきただけある、物分かりだけはいいな。ま、勉強方針については再考した方がいいぞ、何の資格を取るつもりなのかは知らんが

ならば是非知ってください、そんでもって私に諸々ご教授ください先輩!!
メンタル破壊されまくりのココア、さっき罵倒しまくってた先輩にしがみ付く。

ええい、離れろ! 何で君に腰をロックされねばならん、どうせならタマくんに抱きしめられたかった……

そんな妄念に縛られる時間の代わりに私の勉強を手伝ってくださぁぁいいぃぃ……(←ロック)

莫迦を言うなッ、君の勉強を支えるとか間違いなく相当の時間を消費するじゃないか。知っての通り、私はタマくんの観察で忙しいんだ……それ以上のメリットが君との附き合いで生ずるわけがないだろう――

そんなタマ先輩に迷惑な時間、捨ててくださいよ!! えっと……あ、そうだ、そんなデンジャラスな趣味を事案レベルまで深掘るよりも、もっと建設的なことしましょう!

……は? 君から建設的なアイデアが出てくるとは思えないんだが

でも私、少なくともツララ先輩よりはタマ先輩と確実に友好関係にありますよね?

うぐ

だからッ、私がツララ先輩とタマ先輩の仲を、ある程度取り持ちますよ。抑も仲が良くなれば、ストーキングって手段を使う必要もなくなりますもんねッだって正面から会話しながら観察できるんだから

し、正面からタマくんの表情筋を観察できるだとッ!?

そんな気持ち悪いこと言ってませんけどッ、でもより安全にタマ先輩を視界におさめる事ができる! そういう意味で、建設的ってことです! どうです、コレが交換条件……

……君が私の趣味に同伴する代わりに、私が君の資格勉強をサポートする。そういうことだな

同伴っていうか改善のつもりでいますよタマ先輩のために……。どうでしょう、ツララ先輩! 私のこと、助けてくれませんか!

…………
ユラは腰にしがみ付いていたココアを引き剥がし、再び自分の椅子に座った。
分厚い漢字辞典を奪い去りながら。


……まぁ、これほど分厚いモノを君ん家の優秀な家政婦がテキストとして買ってきたことを考慮するに、生半可なモノではないんだろう。ならば黑稜の学生として、相応しい難易度……ブランドの補強には値するかもしれんな

……!

いいだろう、盟約を交わそうじゃないか。私のより良好な暇潰しもといストレス解消に、役立ってもらうぞココアくん

はい! よろしくお願いします、ツララ先輩!

だからツララ先輩はヤメロ
かくして。
ココアに力強いストーカーが味方についたのだった。