[1-5]何でやねーーーーーん!!!
あらすじ
「……そうですか。今日は、私とココアさんだけ、ですか」
最重要レギュラー面子、1人初登場します。
ホラーってほどじゃありませんが、一応気を付けてくださいなプロローグその5。
スタート!
黑稜キャンパスはブランド主義の根強い由緒ある歴史を持つ。
その歴史の過程で作られた、暗黙の了解。「階層」なる概念。
脆弱なブランドは黑稜において人権の希薄化も疑わない弱者であり、神々しい背景と才知ある者は崇拝されるべき強者。
この世界には明瞭で強靱な人間ピラミッドが形成されているのである。
さような黑稜キャンパスのカーストのほぼ最上層に、彼女は立っていた。
! 見て、ユラヒメ様よ!!
ああ……一目見て頷かざるを得ない……! 立っている場所が、見ている世界が、明らかに異なる――
「世界の未来」達の足を止め、目線を奪い、尊敬を集める。その一空間の要素が一斉に静止を強いられたかのように、カーストの摂理が完全に機能する。
そんな中を、藍色の髪を靡かせて女子は変わらず歩行する。廊下に、その革靴の叩く音が響いてよく聞こえるほどに。
その女子が、この場の主体であることを誰一人疑わなかった。カーストは正常に働いているからである。
ご…ご、ごきげんよう! ゆ、ゆ、ユラ――
ごきげんよう。私の名を口にするのが難しいというならば、無理せず「参席」とでもお呼びなさい
ひ――も、申し訳ございません、参席……!!
ごきげんよう……参席。本日も、今年度この学園一の美しさ。どうでしょう、近々僕の家で催される竪琴の宴に、一華として是非お迎えしたいのですが――
ごきげんよう。それはつまり、この私をドリンクの摘まみ物に出すという考えでしょうか? その提案に、私にとって何の利点が有るのか見当もつきませんね
ッ――い、いや、そういうことでは
よって、どうぞお引き取りを
ハンミョウグループの次代を担うあの方の誘いを、即座にお断りした……いつもと変わらぬ、気高き極まりし孤高の――
――美しき、氷条の姫君……!
世界一のジュエリービジネスグループ。富豪拾山にも数えられる大財閥の令嬢。
そのブランドを継承するに相応しい氷刃の才知、下々の輩を綺麗に払いのける吹雪の人格からも、文句なしに稜泉最高峰の華。
「氷条の姫」とすらナチュラルに称される彼女は、更にもう一つのステータスを持っていた。
あ、先輩
……ごきげんよう。ココアさん
ごきげんよう、です。……ん、普通に挨拶しちゃダメじゃん私、ここはしっかりヤンキー風に……ヤンキー風のごきげんよう、って何――?
再三と注意していますが、不良にあえて憧憬の念を抱く意義は皆無であることを弁えなさい
む……またお説教ですか、お手伝いの小言で聞き飽きましたからノーサンキューです! それよりも、行くんですよね? 一緒に行きましょう
ええ、当然ながら隣を歩きましょう。……ところで荷物は?
昼休みの間に持って行っちゃいました。野暮用があったのでついでに
……察するに、授業もマトモに受けていませんね。ブランドを破壊する意味合いでの不良を目指すというのであれば、それは既に達成しているに等しいので要らぬ努力ですよ。寧ろ改善することに全ての努力を捧げなさい
だーかーら、お説教は懲り懲りですー! ただでさえ最近資格云々で周囲が小言祭りなのに……
稜泉学園における、更なる上位の領域。それは黑稜のカースト上層の者達よりも構造上優位に在る、特殊自治組織。
稜泉学園における生徒会――別称「玉席」なる特位階にユラは属していた。ちなみに、あろうことか隣のへっぽこ不良嬢ココアも彼女と同じ「玉席」であった。
故に放課後、ユラとココアは生徒会室――玉席に身を置く選ばれし者のみが立ち入ることを赦される、「璧玉ノ間」へ向かっているのであった。
他の者は?
バ会長は相変わらず、ハコは何だか今日はイケそうな気がするとかで海賊王活動。タマ先輩は暫く出張祭りらしいです、さっき会いました
……そうですか。今日は、私とココアさんだけ、ですか
稜泉の行く末を堅牢とすることも、逆に破綻させることもできる。それほどの力を有することが構造上約束された「玉席」。
稜泉第一に属するだけでも極めて強力なステータスであるが、そこに玉席という白金のラベルを貼ったなら未来は安泰も当然。
遠くから羨まれることは苦労なき義務であるユラは、ココアと共に静かに璧玉ノ間へと入った。
……………………
……ちなみに。
玉ノ参席、氷条の姫は。
誰も居ない場所を見つけては、こう嘆いていた。
何でやねーーーーーん!!!