[1-8]話すら聴いてくれませんでした
あらすじ
「オレッチの話を……聴くんだぜえぇえええええ!!!」
稜泉史最高峰の問題児、疾走。
ちなみに私史上最難関のキャラクターでありますプロローグその8。
スタート!
稜泉学園の歴史は長い。その尺度における「少し前」までは、稜泉はすなわち俗世に穢されること能わない黑の制服のエリート校であった。
しかし、昨今の稜泉学園に対する俗世の認識は変わりつつある。「白紙」が混入したからである。
稜泉学園第二キャンパス。またの名を、黑稜に対する「白泉」。
それは本来稜泉には存在しなかった、新たな類いの若者たちの場となった。様々な観点があろうが、ここではあえて偏差値という数値で示す。
このキャンパスの平均偏差値は40手前くらいである。
どうよ、今日メイク盛りに盛ってみたんだけど
それはウケる~ヤマンバみたい
ガチでヤマンバじゃん! 実物見たことないけど~
はぁ? あんたら感性腐ってんじゃないのー?
といった黑稜的には総じて下賤な会話と下賤な活動に明け暮れる無位下賤な者達が蔓延る下界。
そこでは最低限の学力素養を基幹授業に任せ、もう半分の実授業で各々の専攻に基づいた活動を心ゆくまで展開する。その専攻は各々が定義し、各々が教員や協力団体の助力を得ながら活動を決定してゆく。
そこには、黑稜が持ち得ない、白紙ゆえの自由と保証された個性が在った。それ故か――集まる人種も多種多様であった。
その最たる例、言い換えれば異端の極みこそが、彼女である。
う、うわあぁああああぁぁぁぁ!? 来るなあぁぁぁぁ!!?
待つんだぜヤスモトオォォォ!!! 話をしっかりとッ聴くんだぜえぇぇぇぇ!!!
いやああぁあぁぁぁぁぁぁ助けてええぇえええ誰かあぁぁぁ!!
このッ将来の海賊王イオリッシュ=メイヨセンゲン=ケンリショウテンの、乗組員になるんだぜえぇええぇぇぇご検討よろしくなんだぜえぇぇぇぇ!!!
う、うわあぁあああヤマンバじゃなくて海賊王が来たぞおぉおお!?
嘘でしょ、コッチ来ないでよヤスモト!? きゃあぁぁぁ!?
逃げろおぉおおおお!?!?
!! そこのヤマンバッ、お前も話を聴講するんだぜッ!! 今は無名の海賊王イオリッシュ=ウチクビゴック=モンシマナガーシの船に将来乗ったなら――
乗らないしヤマンバじゃないから来ないでえぇえぇぇ!?!?
学年は1年だと分かっているのに何故かクラスは不明。
超速、そして大迫力の疾走で以て無差別に男女を追いかけ回し。
専攻は「海賊王」。
オレッチの話を……聴くんだぜえぇえええええ!!!
最高に天衣無縫な活動を行っている将来の海賊王イオリッシュなんちゃら。
イオリッシュじゃない方の本名すらさほど知られていない彼女こそが、黑稜が呟く稜泉史上最悪の「白」であった。
あ、ハコ
ぬ、ココア。オレッチの航海の邪魔をしてくれるな、だぜ!
もう、船なんて乗ってないでしょー。生徒会室行くんだよね? 一緒に行こー
船員ですらないのにオレッチに命令すんなだぜ!!
何故、最悪なのか?
それは、黑稜という別世界に住まう彼らにも、影響を及ぼしうる存在だからである。
今年度、あろうことかハコは「玉席」なのである。
そんな、異端にも程があるカオスシチューデントのハコは、地味に同じく問題児なココアと共に生徒会室に入ってゆく。
で、今日の海賊王活動はどうだったの? 噂広まってたよー、今日はヤマンバさんを追いかけてたって
ふっふっふ……聴いて驚くなだぜ――
……ちなみに。
玉ノ肆席、海賊王イオリッシュは。
誰も居ない場所を見つけては、こう嘆いていた。
――話すら聴いてくれませんでした……