[8-01]標

あらすじ

「私は、変わりましたか――?」

ココア様、自分を振り返ります。

遂にラストインサートエピソード開幕、1節から飛ばします。

スタート!

――パチンッ。

無垠といわんばかりに拡がり焼けた空に、気持ちよく響いた音。

姉様に、会いたかった。それにはパパにもママにも頼れなかった。

姉様を「居る」と言っているのは私だけなのだから、私だけが努力するしかないんだから。

あるとき、すっかり変わった姉様を目の当たりにしたことで、光明は少しだけ見えた。1つの結論が生まれた。「強くてカッコいい」ヤンキーになれば、私はまた、姉様に会える。

だって姉様の居る世界って、そういうことでしょ? だから私は、ヤンキーになったんだ。

服も特注にして、歩く時も音を鳴らすように。群れないように……はできてたか微妙なところだったけど、素行はワルに仕上げて毎日トレーニングして。

……けど、A等部になっても私は、全然、程遠かった。

私は全体的にポンコツ過ぎるんだ。

テストの点がヤバいのはヤンキーらしいかもだけど、体力と身長が明らかにチビチビだった。このままじゃ……辿り着けない。

ココア

パパにもママにも、誰にも譲れない!! 譲らないッ…!! 姉様を……連れ戻すんだ……私が……

何とかしなきゃ。

もっと、何とかしなきゃ。

私は、いっぱい、考えて。

悩んで、辛くて、苦しくて、だけど絶対諦めちゃいけないから。

私が諦めたら絶対、叶わないんだから。

……だから――

ココア

誰もお願い、聞いてくれないなら、私がッ! 私が――

――だから、この日を迎えた。

そして……私は、ぶたれた。

タマ

――恵まれない、人達がいる

この時もう既に身体中、全身、超絶痛かったはずだけど。それを一時的に全部吹き飛ばすくらいに。

タマ

対して貴方は、恵まれている。沢山の人達に支えられて、平穏に生きることを許可された、最高に恵まれた人なの

この平手は全身に響き拡がって。

タマ

その何もかもを……私達を、周りの人達を、貴方自身をッ! 侮辱して、裏切ったということがまだ分からないの……!?

きっと一番、痛かった。

ココア

…………

1日には必ず、この空の時間がある。

お天気や雲の具合にもよるけど、雲烟縹渺を反対に浮かべて、こうやって真っ赤に染め上げる時間。

だからほぼ毎日、私は思い出せる。忘れられるわけがない。

あんなにも本気で叱られたことはなかった。あんなにも真正面から自分のことを否定されたことはなかった。

……あんなにも恥ずかしい1日は、今後長い生涯にも見当たらないんじゃと思うくらいに。

ココア

――”本当にお前は、ソレで良かったのか?”

私は、止まってしまった。姉様を追うための足を。

あの2人の前で。

――見えていた筈の一筋の光は、その瞬間、見失った。

ココア

……失礼しまーす

その代わり、周りの景色が、少し明るくなったように感じた。

あの日は……そう、これくらい。燃えるように真っ赤に流れるお空だったんだ。

タマ

あ、ココアちゃん。お疲れ様

ココア

お疲れ様ですタマ先輩。……いやホントに疲れてますよねその目の下

タマ

あはは……しばらく、こんな調子が続きます

ココア

何か、防災喚起の式典っぽいのにお呼ばれするの確定なんですよね? 流石です、タマ先輩

タマ

この一連の仕事はココアちゃんがメインだったでしょ? これはココアちゃんの実績なんだよ。とある事情で、私と会長が出席する方向に落ち着きそうだけど……

ココア

よくは知らないですけど、結局そうなったんですね。まあでも、ヤンキーな私としては皆の前で表彰されるのは逆に不名誉な気もするので、よかったです!

タマ

……そっか

本格的に……といっても出来ることなんて未だに全然無いんだけど、玉席として稜泉で生活するようになってからは、全然違った世界になった気がした。

ツララ先輩達と金閣事変アフターケアに走ったり、校長先生と打ち合わせしまくったり。あと勿論、四字熟語の勉強だって。

えげつなく忙しい日々。その中で、不安が無いわけじゃない……今だって、あの頃と同じ恐怖感がそこそこ溜まってると思う。

ココア

……タマ、先輩

ただ、あの頃には見えなかったものも見えていて。

ココア

私は、変わりましたか――?

タマ

…………

少なくとも今は。

ここに1つのがある。

タマ

…………

ココア

――!

お仕事中だったタマ先輩が、立ち上がって。

私の傍に来て、ほっぺたを撫でた。

タマ

……よかった。痣とかになって残らなくて。あの時の私、本当どうかしてたから……

ココア

ううん、どうかしてたのは明らかに私だったからっ。あの時……タマ先輩が、居てくれたから……タマ先輩とバ会長が私のこと、見てくれてたから。後ろを振り返れた――

最近、ウミナリさんから貰った言葉がある。

――前を向くために、後ろも振り返りなさい

アレはかなり私の中に浸透した。ずっと前に同じような旨を、この人が伝えてくれていたから。

ココア

タマ先輩こそ、あの人に蹴られたところ、大丈夫ですか? 骨やられてるってバ会長言ってましたけど……

タマ

何とか治ってくれたかなぁ。だから、心配しないでね

ココア

タマ先輩を心配しない日はないですよ……摩頂放踵ばっかりやってたら、いつか私よりもちっちゃくなっちゃいますよ!

見失ってはいけないものは、1つとは限らないんだ。

だからもうあんなことにならないように、私は取りあえず目先の目標というのを決めた。

ココア

タマ先輩

強くてカッコいいヤンキー、とは程遠いんじゃと正直思う。

だけど、少なくともこの人に近付けない限りは、叶う筈もないんだから……。

タマ

…………

ココア

これからも、よろしくお願いします

タマ

……うん。貴方が迷わず成長していけるなら。記憶ある限り、貴方の為の標に成り果てるから

ココア

いや、果てるところまではいかなくてもいいですから……私が勝手に附いていくだけですから!

あの日、見失う代わりに見つけた大切なこと。

姉様。

私は本当に、最高に恵まれるんだね――