[1-3]いや、Ⅲ種だね!
あらすじ
「何か格好良さそうじゃん、ヤンキーの人はみんな漢字刺繍してるし」
ココア様、色んな資格を見てみます。
先に申しておきますが、出てくる資格はフィクションなのです。プロローグその3。
スタート!
むー……
ココア様、もうグッスリするお時間ですよ、夜更かしはお肌の敵で……何を眺めてるんです?
お手伝いとして雇われている二つ名「ダンベル」の家政婦は、令嬢ココアが色んな紙束に囲まれて唸っている姿を目撃した。
あ、ダンベル……ご苦労様ー
ココア様とあろう御方が、夜中に文書を眺めるだなんて。明日は雨で決まりですね
家政婦にまでバカにされてるよ私……絶対見返してやるー! うー!
まあまあ。……それで、どんな気の回りですか? 資格学習の資料なんか集めて
ココアはある昼間の決意をダンベルに話してみた。
なるほど……それで無料取り寄せしまくったわけですか
何がいいかなーって見比べてるの
……ところで、これらの資料はどこから取り寄せたんですか?
何か國聖館でたまたま配りまくってるおじさんが居たんだ。その人から話聞かせてもらって、それからトントン拍子で色々と貰った!
……あー……
何だか臭かったり、小さな虫の死骸が挟まってたり、新品であっても新品と言ってはならないくらいに提供された資料は内容以前に衛生的に問題があった。
子守役ダンベルは頭を抱えた。
ココア様、お願いですから知らないおじさんに話しかけに行くのはおやめくださいね……
良い人だったよ?
いえ、危ない人だったと断定できます……少なくとも顧客候補への最低限のマナーすら持っていない悪質な類いのセールスです。まぁ、請負というだけで、コンテンツ自体の品質は大丈夫そうですが――
まあまあ。大事なのは資格だから! さて、何を勉強しようかな~っと――
今ココアが見ていたのは、ざっくりと並べられていた資格リストであった。
見聞すらないココアにとって、それは端から端まで未知のモノ。
枕検定……ソーシャルセラピスト……ボイラー……? んー、イメージすらつかない……
その資料も羽虫だらけですね、没収していいですか、いいですね
――あ、待って!!
そんな価値のなさそうな時間に、1番の声を発するココア。
その目に……心に、1つの名が留まっていた。
レコンキスタエクスプレサー……ナニコレかっこいい!! ヤンキーにも似合いそう!!
え?
「そういう選び方なの?」という疑問以上に、ダンベルは疑問に思った。
「それは一体何の資格なんだ?」
えっと……おじさんくれてたかな……あ、あった! 薄いけどエクスプレサーの資料……あれ、すっごいしなしな、もしかしてお茶でも零した?
……私が確認します
令嬢の手をこれ以上汚さないために、ダンベルは資料を強引に奪った。資料といってもⅠ枚の用紙のみ。
下半分の茶色い染みに不快感を抱きながらも、ココアの琴線に触れた謎の資格を把握してゆく。
……語学、に分類されるでしょうね。要は沢山の言葉を使いこなすことを証明する検定資格ということですか
つまり文化系! ユサさんの話的にもOKだね!
しかし問題は、全然知らないヤツだということですね。一応資格申請は通ってるようですが……怪しい
つまり、他の人が持ってる可能性も少ない!! 黑稜でも通用する資格ってことだ! ここまで揃ってるならもうコレで決まりだね!!
貴方はホントウにバk――純粋ですねぇ
このお嬢様は基本的に頑固。新入りの語学検定の割に受験料やら認定料やらが不当なレベルで高価なのも気になってたが、ダンベルは諦めていた。
(それに、富豪は知性を問われるもの……それも「実用」する力は外面以前に必須の才。ココア様自身がやる気になっているのだから、これを機に後を継ぐ為の才知が見込まれるか、判断するのも吉か)
となれば、実行に移るのみ。
ダンベルは不潔な用紙を返さず、ココアに文面を見せる。
どうやらこの検定は何種か分かれているそうです。Ⅰ種が幻想概念・用語特化、Ⅱ種が流行語・現代表現特化、Ⅲ種が難漢字表現特化。……どれもパッとしませんが、取得と今後の実用性を考えるならばⅡ種が妥当かなと思いますけど――
……いや、Ⅲ種だね!
ダンベルの提案は無知の結論に弾き返された。
ちなみに理由は?
難漢字ってことは、何か難しめの漢字ってことだよね? 何か格好良さそうじゃん、ヤンキーの人はみんな漢字刺繍してるし
特攻服の話をされてるんですか?
ココアらしい、箱庭令嬢らしからぬ独特の最大動機にダンベルは蟀谷を指で押す。
ココア様を見てると、眼精疲労が加速しますね……
何で!? ただダンベルが働き過ぎなんじゃ……
「貴方のためにいっぱい働いてるんですよ?」
湧き上がる嫌味もダンベルは全力で呑み込みただ跪くのみである。
えーっと……詳しい範囲や試験概要、学習の手引きなんかは検定料を一括振り込んでから伝える、とのことですね。返金不可、と
よーし……明日、に連絡が来るかは分かんないか、連絡来たら頑張るぞー! ダンベル、振り込んどいて!! 私は歯を磨いてくる!!
ココアは部屋を後にした。
……取り残されたダンベルは、取りあえず部屋に散らかっている羽虫だらけの汚れた資料たちを素手で集めていく。
もはやココア様の育ち方やら人格やらに文句は言うまい、と決めているダンベルは、それでも一言部屋に漏らした。
ココア様、漢字っていうのは私の知る限りでも、砂漠の砂くらい無限に在るんですよ……