[6-10]間違いなく、事実だ
あらすじ
「私は何よりも、勝ち得た今が愛おしい」
ココアとユラ。2人の関係とは。ラストの10節です。
絶妙なボリュームで6話は終了、さあアウトプットフェーズ6に入るのだ!
スタート!
――翌日の昼休み。
ぶはははははは、四字熟語の勉強が捗るなぁあああハコちゃんよぉおおおおおお!!!
う、ウザったいッッ全く集中ができないなり……!!
生徒会室では薄ピンクの大惨事が拡がっていた。
…………
ココアは当日全力でフォローを頑張ったものの、その後日のこの人のテンションがどうなるかとかは全く失念していたのであった。
結果、生徒会室どころか黑稜キャンパス、果てには白泉キャンパスでも小規模の大惨事が報告されていた。
ツララ先輩ッ、今日黑稜では氷条参席が常ににっこにこで別ベクトルに怖いって騒がれてましたよ!! 表バージョンはどこに置いてきたんですかッ!!!
こ、黑稜だけじゃないなり……白泉でも貴方、通り魔のように笑顔ばら撒いてたでしょう!! ソレを浴びた学生の9割が何らかのアレルギー症状を訴えて保健室に殺到したのですよ!!
何で私が満面スマイルで廊下を歩くと保健室が賑わうんだ? まあ、良しとしよう!! 私は一夜越えてもなお上機嫌だからなぁぁぁ!!!
ヤバい、ナ行以降の四字熟語の使用例が全部鼻血系でまとめられています、昨日何があったのか知りませんがココア何とかするなり!!
うっわコレは酷い……
ココア、今後の学習の精神を心配する。
取りあえずご満悦な参席を椅子に落ち着かせる。
はいはい、じゃあ反省会というか、フォローアップでもしましょうかツララ先輩。今後の目標も定めないと
タマくんと夜を共にして一句詠む。今なら夢が叶う気がする
無 理 で す 。
こんなにはしゃいでいる先輩を見たことがない。
昨日のデート作戦は成功だったのであり、タマとの関係はどこか確実に進展した。交わすべき言葉も交わせた。
だからこそのこの笑顔。
(本当に、タマ先輩のこと、大好きなんだなぁ――)
大好きという言葉では不足しているだろう。
次元の異なる、想像の届かない執着にして、信頼。
ユラにとっては、自分たちとタマとでは明らかな線引きがあるのだとココアは今更ながらに思った。
…………
まあココアくんに方針は委ねるとしよう。やはりタマくんとの仲を調整するという繊細で即時対応の求められる役割となると、神がかったフォロースキルを有する君以外に任せられる気がしない
……まさか本当に、あの絶望的な溝を埋めてしまうとは
ふふ、確かにな。私はいつの間にか凄まじく重要な選択肢を通っていたのだな、君と盟約を結んで大正解だった。人生史上最大の英断といってもいい
……盟友……
――本音を聞けるでしょう
不意に、ウミナリの言葉がこの時蘇った。
……対立
ん?
一応、なんか対立してるんですよね? ツララ先輩のお家と、私の……
――!!
私、その辺何にも知らなくてツララ先輩と仲良いつもりでいたんですけど……盟約とか結んで、いっぱい一緒に過ごして……私はソレで、本当に良かったと思います。コレが、”事実”です
…………
……ツララ先輩は、どうなんですか? 私という、存在は……ツララ先輩にとって――
ココアは、戻れないことを訊いた。
自らもまた彼女と同じように、目標がある故に。
前を向く、その証を大事にする選択。
大はしゃぎ大惨事の空気もこの時ばかりは消失して、これまた大きく静寂する。
…………
……ふっ……何をクソ真面目な顔で訊くかと思えば……
かなりガチの問い。何かが変わるかもしれない、一種の恐怖を引っ提げて叩き出したココアの覚悟である。
それに対してユラは呆れ返るように笑った。
えっ……
ウミナリに何か囁かれたか? アイツはしょーもないことばかり気にしている節があるからな。あの父の堅物っぷりでも遂に遅れて遺伝してきたか?
いや、コレは私の……!
確かに確執のようなものが、あるらしいな。私の見た感じでは……私の父親が露骨に井伊を嫌悪している、それもあって藍澤グループは民警には一切頼らずに本来中立であるべきWKBのスポンサーにまでなって味方にしているくらいだ
!! やっぱり、そういうのが……
しかしソレは私と君には、ほぼほぼ関係無いことじゃないか?
…………え?
ユラは呆気なくそんなことを言った。
何であれ、周りの大人が強く言ってこないということは、束縛されるべき理由には値しない、つまり大したことではないと判断していいんだろう。私はこれ以上、無駄に本心を閉じ込められたくはないからな
……ツララ先輩
呆気なく。滞ることなく。
縛られないユラは語ってみせた。
私は何よりも、勝ち得た今が愛おしい。君も、海賊王も……一応バ会長も入れておいてやろう、こうやって玉席としてテキトウに暇を潰して、一生使わなそうな四字熟語の勉強なんてして、たまにプライベートに外で遊んで。こんなの、少し前じゃ1つとして有り得なかったんだ。どうして、またこの今を捨てる必要がある?
…………
それもまた、1つの覚悟・決心であった。
自分の眼前で今、確かに彼女の事実が語られているのだと……。
私は――前を向く。赦せないモノは赦せないが、これからはココアくんを多少は見倣って花畑を心掛けるさ。でなければタマくんが私にしてくれた事の価値が死んでしまう。ソレだけは絶対、有り得ない
……。そう……ですか
しっかりと、ココアは受け取る。だからこそ、考えるまでもなく思うこともできる。
――この人、思っていた以上に快闊を決め込んでいるんだな。
侍従が言っちゃってたように、いっそアホなくらいに。
本当のことを、晒している。
………………
勇気を出したことは。これまで積み重なった時間は。
間違いじゃなかった、と――
……でも、ダメですよ
ん?
ツララ先輩がすっっごく今日暴れてるお陰で、タマ先輩が教室でメンタル死にそうになってたんですから。多分アレ、原因は分からないけど自分に責任あるんじゃって思い込んでますよ
マジでぇええええ!?!?
シリアス崩壊。
再び局所的にダメな先輩の雄叫びが生徒会室の備品を揺らすくらいに騒がしくする。
方針というか目標というか、まずはタマ先輩に謝りましょうね。本日の愚行の弁解です
ち、直接話しかけに行けというのか!? いやいや、ソレ……真面目に考えて無理じゃね、だってタマくんと会話するって……昨日アレだけのお膳立てがあってようやっと勇気が足りたのに、ちょっとキツくないか……?
私が、一緒に釈明しに行きます。これじゃダメですか?
君ホント女神に見えてきたよ!! タマくんの次にだけどなッ!! ココアくんもう大好き!!!
うわっ、ちょ、いきなり抱きつかないでください鼻血の気配がする!!! ……わ、私だって……ツララ先輩大好きですよもーう!!
本日も生徒会室における氷条の姫君は総じて暑苦しい及び見苦しい融けっぷりを満喫する。
そしてそんな先輩の全裸旅路に巻き込まれる形で、本日もココアは苦笑する。
この日常は、事実である。
……ああ。大好きだよ、間違いなく、事実だ――
……赦せないモノは、赦せない……ですか