[6-04]井伊家と藍澤家は

あらすじ

「……問題は、それとは別の因縁が在る、ということです」

ココア様、寝る前に家政婦と会話。

この作品の性質上、あまりのめり込まずにご覧くださいな6話4節。

スタート!

ココア

ふぅ~……いよいよ、か……

ココア、真剣な面持ちでベッドに寝転がる。

その手には自分で作り上げた渾身のプロジェクト。

ココア

運命のWデートが、始まる――

ダンベル

またデートですか

一方、いつも通りお嬢様の散らかるお部屋をお掃除する家政婦はため息。相変わらずアクティブが過ぎるココアに心配は途切れることないのである。

ココア

また、って……こ、この前のは別に、デートとかじゃないし……

ダンベル

はいはい。そういうことにしておきますよ

ココア

むー……テキトウな返事されてるぅ……ホントにホントだからねっ

ダンベル

それで、謎イベント前夜ということですが何をされているのですか?

ココア

明日ツララ先輩とタマ先輩のデート回だから、歩き回る上野区について復習してるの

ベッドの上には上野区観光の雑誌だらけ。

お片付けが捗らないのでため息もやまないダンベルである。

ダンベル

……なるほど。あの2人の関係を改善するために、ココア様がフォローに回るのですね。……本当に節介が過ぎますね、人間関係は当人同士で落ち着かせるのが吉でしょうに

ココア

んー、まぁダンベルの言うことも分かるんだけど……お互い別に嫌ってないのに、ギクシャクが続いてるのはさ。見てるコッチも息苦しいというか

ダンベル

…………

ココア

どうせツララ先輩が主原因だろうけど、とにかく明日で少しでも……

ダンベル

――こんなこと、今更申し上げるのもどうかと思うのですがね

意気込みは堅いココアに、もういっちょため息。

ついでに掃除用具の手を止めてダンベルはココアの前に立った。

ダンベル

氷条参席とココア様が仲良くしているという現実は、あまり好ましいものではないですよ

ココア

……………………

ダンベル

…………

ココア

……――はい?

ココア、理解にすごく時間がかかる。

というか時間をかけても理解ができなかった。上体を起こしてベッドに座り、家政婦を見上げる。

ココア

ど……どういう、こと……? ちょっと私、よく分からないん、ですけど……

ダンベル

でしょうね。私としても少々予想外で驚いたのですよ。氷条参席の人柄は話題になっておりますし容易く蒐集できました。いくらココア様でも取り付く島もなかろう、と。……が、貴方様は玉席仲間とはいえ彼女と非常に親密な仲となりました

ココア

ソレが、何でダメなの……?

ダンベル

禁ずる意図はありません。”実害”と見なすのも早計ですから。ただ……井伊家と藍澤家は、端的にいって対立関係にあるのです

ココア

へっ!?!?

ココア、勿論初耳。

根幹揺るがすレベルのとんでもない事実がしれっと家政婦により明かされる。

ダンベル

ああ、補足いたしますが利害関係では繋がりは薄いです。ビジネスとして敵味方のどちらもない、といっていいでしょう。ですから「対立していない」という主張もまた有効なのです。ココア様は間違った交友をしていないことはご理解ください

ココア

~~~……?????(←混乱)

ダンベル

……問題は、それとは別の因縁が在る、ということです。繰り返しますが、ココア様もユラヒメ嬢も間違ったことはしておりません。ただ、周りを気にした方がよいと気付くことがこの先あると思われます

ココア

……また、大人な問題……?

ダンベル

そうですね、殆どそのようなものです。井伊という非常に大きな家の者である以上、どんな行為にも多くの外部者の評価がついて回ることを覚悟してください

ココア

ん~~……

ココア、納得するには威力が大きすぎた。

自分とツララ先輩が仲良いのは事実であるのに、それを快く思わない者が居る。利害に直結した「想定外」ではないから誰も止めないが、彼女と笑い合うことを警戒する眼差しが常にある。

不満が残るのは当然であった。

ダンベル

時間をかけて納得していただければ結構です。明日はココア様の準備したものを存分に発揮すればよいでしょう

ココア

まあ、そりゃそうするけどさ……。ダンベルもツララ先輩やウミナリさんのこと警戒してるの? ……あ、思い出した!

ダンベル

……?

ココア

そういえば林間学校の時、あの海でウミナリさんと何かやってたよね? アレ、何だったの?

ダンベル

!! ……見ておられたのですか……

ココア

(あれ……)

何がとは明確に指摘できないものの、ココアはダンベルの珍しい表情を感じた。

ファッション意識以外いつも完璧な家政婦の隙を見た感覚。それはすぐに遮られ、クールに家政婦は応対する。

ダンベル

特に何も。ココア様が心配することでもありません

ココア

んー……そう?

ダンベル

ええ。……付き従う者同士、思うところがあるといったところです

ココア

…………

この夜も、謎だらけ。

不快な渾沌っぷりに唸りのやまないココアが再び寝転がる。

すべき話は終わったのだろう、ダンベルも再び作業を開始する。お部屋はどんどん綺麗になっていく。

ダンベル

……ココア様

ココア

……なーにー? 秘密だらけのダンベルさーん

ちょいふて腐れ。不完全燃焼お嬢様に、掃除の手を止めないで再度ダンベルは語りかけた。

ダンベル

いずれこの家の当主になるであろう、ココア様の知見を抑える真似は極力いたしません。ですが……

ココア

ですが?

ダンベル

もし、踏み込む時が訪れたなら――進めば戻れないことを思い出してください

ココア

……ダンベル?

ダンベル

では、これにて。おやすみなさい

警告を、残した。