[6-01]ボロボロのちり紙
あらすじ
「私が本当に求めていたモノに成り果ててくれた、世界でたった1点の旱天慈雨。」
お待たせインサートエピソード、第6の幕が上がります。
いきなり意味深で危険が過ぎる1節。今回は10ページ編成で参ります。
スタート!
どうして貴方は――
……? は、はい……
――この私と、同じ空気を吸っているのです?
――ッ――
別に、黑稜らしくあろうと心掛けた覚えは無い。本当だ。
そんなたいそうな意志はなかったのだ。考えることもしていなかったろう。
ゆえに識別は粗雑。ハッキリとしている違いがあるならばソレで何となく比較を終わらせて……。
すなわち、ブランド下位の連中なんて揃って下等なわけで、ろくでもない何かに見えていたのだろう。
テキトウに見るし。テキトウに発言して。
取りあえずブランドで評価して。ブランドレスとかいう雑草は見る必要もなく処理して。
その際に、持て余す歪んだ感情をぶつけるように捨てて……まあ、要はあの頃は彼女もちり紙にしか思えなかったワケだ。他人様に見せては気分の良くないモノを丸めてゴミ箱に捨てる。誰もが意識することもないだろう、その時ちょっと便利だっただけの、全く重要でない物。
破けたって何も思わない。使った後に汚れるのは当然だし、あとは速やかに廃棄して自分は綺麗なままで。
そうやって――私は彼女の心を徹底的に傷つけた、最低の人種なのだ。
……おはようございます、参席
気分が悪い。視界に入らないで
……申し訳ありません、大変失礼いたしました――
何言ってるか分かりません。黙って作業でもしてなさい
…………
コイツは心底くだらない存在なんだな、と思っていた。別に理由を思考するほどの必要性もない。つまり単なる感想。私の感性100%での観察結果というわけだ。
本当に道具みたいで。ブランドある者たちの言いなりの人形みたいで。負け組の言葉がよく似合う、そう受け取ったわけだ。
実際そうだったとしても、そうさせたのは明らかに私達であるというのに。
ともかく私は思考を放棄していた。
苛つきを、不満を、絶望を、柵から出ないように飼い慣らすことばかりに明け暮れて、大きな理由もなく黑稜生を……下等が憧れる氷条の姫君を演じ続けていた。
……いつからその構造が確立されていたのかはよく覚えていないが、そうして内側で歪み凝り固まった排泄すべき感情を投げ丸め捨てるためのちり紙は、彼女だと思い込んでいた。
とにかく姿を見たらぶつけて。暖かみなんて微塵も無い凍てついた言葉をブッ刺して。
日常が壊れるんじゃないかってくらい、柵が壊れてるんじゃないかってくらいたくさん、思いっ切り、ぶつけて、破いて、丸めて、捨てて――
――申し訳、ありません……参席……申し訳ありません――
……………………
ごめんなさい……ごめん、なさい……ゴホッ――ごめ……なさ――
――この子は、私と同じ黑稜生であり。学生であり、すなわち人であり。
――ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい――
……………………
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめッ…ゲホッ――ごめんな、さい……ごめんなさい……!!
……………………
1人の人間として意志を有している、代替なき存在であるなどという当たり前過ぎることに気付いた時には。
破れに破れて、ちぎれて、汚れきった彼女しか居なかった。
というかそんな彼女を眼前で見て、触れたから、私はやっと理解を示したのだ。
……何、で……
ごめ……なさ……
私は何も、命令なんてしてなかったのに――!!
鮮血淋漓。穴を無数に作り全身を赤く染めた、もはや何にも使えないボロボロのちり紙。
私の言葉を。罵倒を。そして、歪んだ氷条を。どれだけの数を受け止めようとも、この私のために使われようとするブランドレスの後輩は。
人なのだ。
無力な、私、には……
……!!
……こんな……ことしか、できない――
意志を有して、思考して。
懸命に行動した末に私の前に跪き続けた、れっきとした人間なのだ。
氷条の姫君でなく、藍澤結晶姫と向き合い続けていたのだ。
――私が本当に求めていたモノに成り果ててくれた、世界でたった1点の旱天慈雨。
(ああ……私は……どれだけの間、最低な姫だったんだ――)
凍えた氷条の胸中は、暖かな慈雨によるものか、大発散で急激に上昇した自分の熱によるものか、歪みごと融けて本当の世界を取り戻していく。
本当の私が、再び世界に晒される。
でだ……久々に正常に働き始めた思考がまずしっかりと評価をくだすべき相手は当然、他ならない。
……あの……
? どうかしましたか?
ソレ、私のお手拭き……
え、ああ! すみません、どうやら間違えてしまった模様、いやー私としたことがぁ(←バッグに入れる)
??????
――君だけは、本当の私を裏切らなかったのだ
――私の見るべき最大の相手は、私の人生を懸けるべき対象は
――君なんだ……