[7-10]この私の友だちとやらは名乗れないなり

あらすじ

「信じ抜いて、ひたすら前に進む。それだけだよ」

マインドリフレッシュココア、あの子を探します。

インサート7の10節です。難解ストーリーお疲れ様でした、お次は完全に終盤のアウトプットフェーズ7となります!

スタート!

次なる平日。

ココアはグラウンドを見回し、耳を澄ます。

ココア

……悲鳴が聞こえないなぁ

稜泉名物といえる朝っぱらの断末魔がなかった。

ならばきっと外には居ないと思ってココアは生徒会室へ向かった。

ココア

……あれ。居ないなぁ……

生徒会室はただただ静閑としていた。

ココア、確実な宛てがなくなる。しかしめげずに朝の学園を彷徨ってみる。

……………………。

ココア

んー……と、なるとー……

本を読む習慣なんてない学生たちがまず朝に訪れることのない空間。

実に静謐なる白泉の図書室。

基本的には無人……だが、この日この時間には珍しく客が居た。

ココア

あ――

ハコ

…………

彼女は独りで、本を読んでいた。

海賊王でも肆席でもない、また別の顔……ココアはそう感じた。

ココア

(ハコって、ツララ先輩以上に色んな顔があるんだなぁ――)

――と、ココアはこっそり近付いていく。

すると彼女が読んでいる本にココアは気付いた。

ココア

……おっとぉ?

ココアはその書籍に見覚えがあった。

というかそれは公共スペースに置くに堪えないボロクソノートであった。

ココア

私のやつじゃん!!

ハコ

ヒンッ!?

突然の大ツッコミに読書ハコは椅子から跳ね上がった。

ハコ

!? こ、こここここココア、何故こんなとこに――

ココア

特に用事は無いけどハコを探してたんですー、そしたら何故か私の生徒会室用棺桶にしまっておいたノートがハコの手元にあるんですー

ハコ

うぐ……そ、そんなことより

窃盗容疑をスルーしてハコは抱いていたボロクソノートに目を遣る。

ちなみにこのノート、尋常じゃ無い量の海賊王活動に関する試行錯誤の記録、ついでに自分自身に対する考察や感想が事細かに刻まれていた。

ハコ

……何で、このノートこんなにボロいんですか? 幾ら何でも使い込み過ぎでは?

ココア

え? そりゃハコのことだし、いっぱい使うよ。まあ確かにだいぶボロボロだよね……最近は壊れるの怖くて学校に置いてたわけだし。こんなに一冊のノート使い込んだことなくて一種の誇りになってるんだー

ハコ

…………

ココア

まあ、結果は出てないけどねー……あれ、どしたのハコ?

ハコ

いえ……

ココアはハコの隣の閲覧席に座った。

特に本を読む気はなく、ただただ隣の友だちを抱き抱きする。

ハコ

う、うざったい、なりいきなり何なり――

ココア

やっぱりハコは可愛いなぁって

――そして。

キャラが濃すぎる存在である、と。

ココア

……昨日、ごめんね

ハコ

――え?

ココア

ありがと、介抱してくれて。執事さんにもよろしく言っておいてね

ハコ

は……は――? え??

いつも通りといえばいつも通りのココアベタベタ。そんな中で突然飛び出したココアの発言に、ハコは呆然とした。

それは普通じゃないレベルのクリティカル不意打ち。自分のど真ん中の皮膚をぶち破られたような、それほどの衝撃。

そんな珍しいハコの様子を察しつつも、ココアは微笑む。

ココア

言ったでしょ、警察犬に負けない自信あるって。……見た目の印象操作には騙されても、ハコの香りは間違えないからね私。ふふ、何とか海賊王ファンクラブ会員第一号の名誉は守り切れたかな?

そのココアの気付き。

それは複数の社会を震撼させうるえげつない巨大爆弾かもしれない。

誰かが禁断であると指差し行動を起こすかもしれない。

ココア

変わらないよ

だが、そんなことは関係無くココアは既に1つの心を固めているのである。

ハコ

――え?

ココア

ハコは、私の――可愛くて仕方ない友だち。私もハコも、きっと色々ある。でも、そんなの多かれ少なかれ皆同じだもんね。だから……立派なヤンキーの私は、変わらず信じるんだ

自分が見るべき方向は決まっているのだから――真っ直ぐに。

呆然とこちらを見詰める親友を、真っ向の至近距離から見詰め直して。

真っ直ぐに言葉を――真実をぶつける。

ココア

信じ抜いて、ひたすら前に進む。それだけだよ

ハコ

……………………

ぴーーーんぽーーーんぱーーーん、ぽぉおおおおおおん!!!

ホームルーム寸前のチャイムが静謐な図書室にも鳴り響いた。

ココア

あ、やばっ! 黑稜まで走らないと……いや廊下は走っちゃダメだ――!! ハコも急がないと遅刻しちゃうよ!!

ハコ

……私に遅刻とかホームルームなんて概念はないなり

ココア

いや何言ってるの――

ハコ

私はオメガ白泉なので履修免除なんて容易に勝ち取ってる身なり

ココア

――え、オメガ白泉? ……えぇえええええ!?!? ちょ、新しい情報がまたッ!!

ハコ

言ったことも、聞かれたこともありませんから当然です。……これくらいで驚いてては、この私の友だちとやらは名乗れないなり

ココア

……!!

驚かせ合戦、引き分け。

残念ながら今回も締まらないココア、それでも腰を立て直して、笑う。

ココア

ふ、ふふ……ふふーんだナメてもらっちゃ困るね! 私のハコ愛はツララ先輩のタマくん愛にも負けてないんだから!!

ハコ

……あの2人を比較対象にするのやめるなり

――ココアにハコと呼ばれる少女には、幾つもの顔がある。黑稜白泉の一部の者たちは疑問に駆られる――「この少女は何者なのか?」

1つは将来の海賊王イオリッシュなんちゃら。

1つは革命政権を堅牢いたらしめる影の秀才肆席。

そして1つは――などという思考は、結局ココアにはどうでもいいこと。要は全て彼女。

そんな彼女を、全て抱き抱きするということ。それが正しいと思う自分を、信じ抜くと決めているのだから。

ココア

可愛くて仕方ない友だち――それが、ハコ、だよ

ハコ

そ、それは、さっき聴いたなりッ。……な、ならば。その……これからも――

一つの回答を刻み、ヤンキーココアは前をひた走る。

気楽ながらに、諦めず。大好きな友だちと、これからも……。

ハコ

――これからも、私と……一緒に――