[7-08]きっと貴方は本当に辿り着く
あらすじ
「背き続ける強さが、ずっと欲しかったんです……」
金閣との接触が続く中、ヤンキーココアの起源が紐解かれます。
ほのぼの日常四字熟語コメディはどこいった、インサート7の8節を投じます。
スタート!

……はぁ~~~~……
金閣の令嬢に助けられたココア。
しばらくしたらマキ達が迎えに来るということなので取りあえず純粋な休憩時間である。
しかしリラックスの深呼吸よりも先にため息が自然と漏れたのだった。

どうされました?

いえ、ちょっと……私つくづくポンコツだなって

…………

自己嫌悪ですか。何か思い悩むことでも?

えっと……私、最近ちょっと体調が悪くて……全然上手く眠れないし、でも何か、相談できなくて。今日もユサさんとマキ先輩には私のためだけに来てもらったから、せめてこんな意味不明なことで迷惑掛けたくなくて……でも、結局数倍迷惑になっちゃって

…………

…………ふふ
ココアの手に、お替わりホットココア。
自然と素早い対応をする執事の青年は相変わらず微笑んで落ち込む少女を眺めていた。

あ、ありがとうございます。いつの間に……

お節介でしたか? 同じ味だとつまらないかなと思い、多少味変をしてみました

……! ほんとだ、ちょっとスッキリした甘さな気がする……

うちのお嬢様は死ぬほどワガママなので、その要求に応えているうちに色んなスキルが身につきまして。意識せずとも行動してしまっていることもあり、そこが最近の僕の悩みどころですね。……ミヤビ嬢曰く、そんな悩みはクソゴミらしいですが

そ、そうなんですか


ええ。きっと、ココア嬢についても言えることですよ

え?

ココア嬢は、そういう周りに気を遣いまくるところがきっと長所。かけがえのないご自身のスキルですよ。それがもし過剰であるというならば……その判断は、周りがすればよいのです。ちゃんとココア嬢のことを考えてくれるご友人、いっぱいいらっしゃるでしょう?

…………

別に世界の命運なんて掛かってないのですから、指摘されてから調整したって手遅れなんてありません。要するに、もっとそこは気楽に考えてもバチは当たらないですよ

し……執事さぁあぁぁあん……
執事のまさかの言葉は弱ったココアにドストライクだった。
優しい執事さんである。美味しいココアをそっと提供してくれるお兄さんである。
元々警戒とか苦手な少女は色んな会話をし、執事はそのたびジェントルに返す。相手が金閣であることをすっかり忘却するレベルで打ち解けちゃうのだった。

……それにしても、実にヤンキーさんですねココア嬢は

…………え!?!?

あ、流石に失礼極まり過ぎました?

いえ!? その……私のこと、ヤンキーに見えるとか言われたのほぼ初めてなので……

おやそうでしたか。……詳しくはないですが、社会の空気に溶け込まないからその者たちはヤンキーとでも呼ばれるのでしょう? 自分の思う正しさと、社会の優遇された通念は一致するとは限らないのだから

……!

黑稜、そして旧金閣の社会のルールに結果として背いてでも邁進するさまは、ヤンキーとでも表現した方が適している。お話させていただいて、僕はそう感じたのですが
ココアは執事と握手を交わした。

しかし本当に興味深いですねココア嬢は。……気になったのですが、ココア嬢は自らヤンキーであることを志していらっしゃるのでしょう?

は、はい! 強くてカッコいいヤンキーに……

それには何か、特別な理由があるのですか?

……!!

あー……ははは、どこまでしっかり考えたものかはアレなんですけど……
弱っている心がある意味許した相手。盛り上がっているという心境もあって。
ココアはバ会長などにも話していない領域を、慣れない様子で話し始めた。

パパとママが、姉様は存在しないって、言うからですかね

…………――?

姉、ですか? ……井伊家の令嬢はココア嬢お一人と把握していましたね。長女が別に居るというのは初耳です。相当に今、驚いています

す、すみませんいきなりこんな……!
それは間違いなくもっと言葉を足さなければ理解できないものだった。
勿論、聞き手の金閣2人も理解不能であり戸惑うしかない。ココアもそりゃそうだと苦笑し、続く言葉を見つけていく。

でも、事実なんです! 姉様は、居る……ちゃんと居るんです。それは譲れないから。絶対、姉様との想い出は幻想なんかじゃないって信じるから。背き続ける強さが、ずっと欲しかったんです……

…………

姉様のようであればきっと、貫き続けられる。強くて、カッコいいヤンキーになれたら……きっと、姉様にまた会えるって、何か……そう思って……。………………

……ココア嬢?

いや……あらためて他人に説明してみたら、ほんとポンコツ理論だなって……今になってだいぶ恥ずかしくなってきた……!! うぅぅ~……
ココア、放熱開始。
お顔真っ赤でホットココアにて気を紛らわせる。その様子に執事はまた優しく微笑む。

てか、めっちゃ喋っててごめんない! お二人に何も関係無い話なのに深々と――!

僕が訊いた事ですよ。寧ろ、そんな大切なお話をいただきありがとうございます。ね、聞けてよかったでしょうミヤビ嬢?

いやいや全然何のメリットもないですからッ、ねえ!?

――!?
急に話を振られたボックス令嬢、明らかに肩をビクッとさせた。
一瞬跳ねた身体。その身体が揺れて、シルクのように柔らかく綺麗な黄金長髪も揺れ動く。

……ん――?

折角内側の話を戴けたので、そのお礼になるかは分かりませんが……こちらの頭がおかしいお嬢様の事情でも多少ご説明いたしましょうか

……え……? え、ちょ、いいんですかソレ!? いやダメですよね、私相手は!

いえいえ、ココア嬢だからこそこの執事の口も緩むのですよ。……金閣はご存知の通り表社会では相当に追い詰められた立場。先も申しましたが攻め入られてもおかしくないのです。だから、それを予防する意味合いでも印象操作を大事にしているのです

印象操作?


今大事にしている印象とは、金閣とはまだまだ未知で不気味な、警戒すべき領域。……大体パーティーに参加されている方々はそう話しておられるでしょう?

……マキ先輩もそう言ってました。ユサさんも、冗談半分で近付けないって

そう、近付けない。そういうミステリアスを演出して距離感を作っておけば、彼らによる”残党処理”の可能性を大きく壊せるというわけです。まぁ元々この家はそんなことしなくても充分に、世間からして怪奇的なのですが――

…………

――っと、流石に喋り過ぎましたかね? ミヤビ嬢が睨んでいます

(あ、睨んでるんだ……全然分かんないけど)
当主に睨まれたらしい執事、全然怖じる気配もみせず笑う。
そして、この楽屋の玄関の方へと歩いて行く。

……こんな事ばかりしている我々の生活に比べれば、ココア嬢はいたって真面目で、正常な信念をお持ちです。間違いありません

……え?

こんな言葉に何の価値も無でしょうが。強くてカッコいいヤンキーの道、その真の目的地へ諦めずに歩み続けているココア嬢を我々金閣は心から応援します。ですよね、ミヤビ嬢?

…………

恥ずかしいことなんてありませんよ。きっと貴方は本当に辿り着く。……その旅路をどうか、僕を相手したように、信頼のできる仲間と笑って歩まれることを祈ります

……執事さん――

どうやらお迎えがいらしたようです。こちらへ案内に向かいますので
ずっとスマイルな執事、退室。
全肯定を受けて体内アゲアゲなことになっているココア、体温の処理に困る。
それプラス、無口極まっているミステリアス令嬢と二人っきりで困る。

あはは……もっと、いっぱいお話したかったな……なんておかしいかな。本当は、あっちゃいけない組み合わせみたいなものだし……

…………

……でも……話せて、よかった。会えてよかった。そう自信もって言いたいな。……うん、そうしていこう

…………

あっ、そういえば最初に私を発見したのって、えっと……ミヤビさん? ですよね? 言うの遅くてごめんなさい、助けてくれてありがとうございました!

…………

……執事さんのお話とか、拡散とかはしませんから。なんて私が言っても信用できないか――

…………

――ココア嬢、お迎えですよ
執事がドアを開けて、気まずいタイムは終わる。そしてこの組み合わせの時間そのものが終わる。
……風の道ができたその刹那、頑張って喋ってた前のめりココアとミヤビ嬢の間にわずかな風が発生する。
ミヤビ嬢の綺麗な髪が、少し靡き……
ココアはその風に乗った”香り”を感じた。

(――あ……)

……頭痛くなる光景だな……

ココアちゃん、大丈夫!? 何もされてない、五体満足のまま!?

え、あ、いや、大丈夫。凄く面倒見てくれたから……

そうか。なら戻るぞ。パーティー自体もうそろそろお開きだ。いっそ帰っていいくらいだろう
それなりに強制に近い流れ。
ココアは2人に連れられて、金閣の2人の楽屋から出ることとなった――

(…………まさか――)