[7-07]ミヤビ嬢の負うべき責ですから

あらすじ

「我々はココア嬢を害するような意思は一切持ち合わせてません」

暗雲苦しい旧金閣パーティー回は一気に崖っぷち展開へ!

作者の自律神経も崖っぷちなインサート7の7節です。

スタート!

……見えない。

目を開いてる感覚はあるから、何かしら見えている気は、する。だけどずっと曖昧で、渾沌としていて……。

知覚が上手に働いてない、のかな。よく見えないだけじゃなくて、聞こえない。

そんでもって、怖い。

ココア

(ああ――また、この……体験だ、きっといつものヤツ、だ)

そんな中、わずかならが自分に届く情報というか……解釈?

何だかパパが、苦しそうだった。

ココア

(そうか、今、そこに……パパがいるんだ――)

ママはいない。

パパだけが、すぐ、目の前に。

私の目と鼻の先で――

ココア

(――私も、いて?)

私は。

何をしているんだろう。

パパと一緒に、どんな時間を過ごしているんだろう……?

ココア

――パ…パ……ッ――!!

ココアは、目を見開き、知覚した。

意思に適応するかのように知覚が働いたことに、気付いた。

ココア

ッ……!?

次いで、彼女を緩やかに襲う様々な感触。感情。

それを言葉に掬うこともできず……再び彼女を蝕む何かは暗い奥底に沈んでゆく。

……ココアは、途切れ乱れた呼吸を、整えることにした。

ココア

……また……――

それから……天井を意識する。

自分の部屋とは明らかに違う天井である。

ココア

(……やっば、お外で――いや思い出したッ、パーティーの途中だったんだ!!? 私それで倒れて――あれ、じゃあ何でコレ……布団――)

また呼吸が乱れる大パニック。

起きて早々に目が回りながらも、次々と事実に気付いていく……例えば、自分はトイレ近くの廊下ではなくベッドの設えられた小部屋に寝ていたこと。というか状況からして、寝かせられたということ。

つまり、誰かのお世話になってしまったということ――

???

……お布団固かったですかね? 今はそれくらいしか無かったので、どうぞご容赦を

ココア

――!!

混乱で視野は狭くなってたココア。まず1番先に気付くべきことにようやっと気付く。

無人の部屋にあらず。最初からそこには、人が居たのである。

状況からして自分を介抱した人。その声の主は、中性的な顔立ちで執事服っぽいもので身を飾る青年。

ココア

あれ……確か、貴方は――

執事

こんばんは。いや、おはようございます? というか気付いてませんね。横見てください横

ココア

え? 横?

言われた通り、上体を起こしたココアは横を……左を見た。

匣の女

…………

ココア

――!?!?

すると寝起きに見るもんじゃない顔面インパクト黄金女が座っていた。

心臓に50%ぐらいの負荷。ココアは倒れ込んで苦しんだ。

執事

ほらぁミヤビ嬢、だから言ったでしょう? そんな面白い顔面で見守ったりなんかしたら逆に迷惑になるって

匣の女

……!?

執事

ウチのお嬢様、死ぬほど気が利かなくてすみませんねココア嬢。取りあえず、温かいココアどうぞ。あ、共食いみたいになるから普通の白湯の方が良かったですかね?

ココア

そんな発想したこと人生で一度もないのでココアで大丈夫ですけどぉおおおお……!!

ココア、ココアをゆっくり飲んで何とか気と心臓を落ち着ける……。

……。

…………。

……………………。

ココア

……はぁ……すみません、やっと落ち着けてきました……

執事

いやぁ、ビックリしましたよ。まあビックリしたのはミヤビ嬢ですが、廊下でよりによって井伊の令嬢様がぶっ倒れてるっていうんだから。正直どう対応したものか悩みました

ココア

……あ……す、すみません。そうですよね……だって

匣の女

…………

落ち着いたことで思考と記憶がある程度整理される。

そしてこの状況、えげつなくヤバいことを理解する。

ココア

(金閣と、接触しちゃってる……しかも金閣からしたら私は、立場を奪った家の娘なわけで……)

執事

ああ、一応表明しておきますと我々はココア嬢を害するような意思は一切持ち合わせてません。というか、現グループに返り咲こうとか、そういった予定も皆無ですので

ココア

あれ? そうなんですか?

執事

むしろ戦戦兢兢としていますよ。同情は戴けないでしょうが、いつ誰に攻め入られても文句は言えない立場ですからね

ココア

……ってことはただただ金閣さんに不利な状況、作っちゃってますよね。すみません……

執事

我々みたいな屑層に考慮を挟みますか? お噂通り優しいのですね、別に何か責任を覚える必要は無いですよ。ねえミヤビ嬢?

匣の女

…………

執事

ミヤビ嬢がこうすることを決断した。ならば、この光景はミヤビ嬢の負うべき責ですから

ココア

……責

執事

お知り合いの秦牧家の次男……今は長男でしたか。彼にこっそり連絡をしておきました。きっと今、遊佐家の令嬢殿と共にこちらへ向かっているでしょう。それまでの辛抱、どうか耐えてくださいませ

ココア

あ……はい。ありがとうございます

ココアの唐突ぶっ倒れ事件は、明るみになることなく処理できそうだった。

その点に安心を覚えながらも、盛大に気まずい時間を過ごすのだった。