[7-06]冥櫻金閣

あらすじ

「今なお我々や沙羅などを凌駕する頂点的な力を有しているからだ。その力関係ゆえに、強く出れないでいる」

本作最凶の闇が降臨。

もう描きたくないですインサート7の6節。

スタート!

匣の女

…………

ココア

もしかして……金、閣……?

メインホールの2階層の廊下から、1階層のパーティー中の者達を見下ろす人が居た。

ただそれだけの行為なのだが、見下ろされた人達は皆それだけで気付いてしまったのである。それはつまり、圧倒的な存在感ということ。

少なくとも見た目のインパクトは充分。女性と思われるその人は頭部が美しい金色の匣であった。

ココア

いや、いやいやいや……またおかしい系の人……? 今週は変人デーなの私?

マキ

頭部だけじゃないがな、おかしい存在だ実に。どんな心持ちで未だにこのグループに食いついてるのやら……それにしてもどうやら花畑脳のお前でも多少なり知っているみたいだな

ユサ

ココアちゃん。もう分かってると思うけど……アレが金閣家だよ。現当主って言われてる

ココア

当主……

決して楽しくない知識を呼び覚ます。

ユラの家庭に深い傷を刻みつけた元凶。かつての自分の家の上司だった存在を、初めてココアは目視した。

ココア

えっと……とにかくもう、このグループからは追放されたようなものだ、ってこの前ユサさんが教えてくれたような。富豪拾山の王様だったとはいっても、やらかしたことは大きすぎるわけで……何で、今この会場にいるの?

マキ

……参席のことを思えば遺憾極まりないが、今なお我々や沙羅などを凌駕する頂点的な力を有しているからだ。その力関係ゆえに、強く出れないでいる

ユサ

金閣って、ただこのグループで頑張ってきただけじゃなかったんだよねぇ

ココア

えっと……?

マキ

中央大陸唯一、WKBの管理が届かない謎多い昏きの世界・冥櫻区の地主であることが例の事変後に発覚してな。イメージとしては一つの国家を相手にしているようなものなのだ。それも、非常に危険な……な

ココア

あ、あの櫻前の反対にある立ち入り禁止閉鎖区域ですか!?

マキ

流石にお前も脅威はそれなりに知っているか。あそこ自体、底知れぬ力を持っているとされる恐ろしい世界。戦争が流行った近代において毘華や大輪に比べて中央大陸がそれなりの平穏を保ち続けてきたのも、また空塔とかいうよく分からない「世界の中心」が我々にとって脅威ではなく世界を維持する設備だと認識できているのも、冥櫻金閣がそのように働きかけてきたからだというのも後々発覚した。結果的に、今も「放置はむしろ危険」としてお前のグループが責任もって適度に視界に入れるようにしてるわけだ

ユサ

そういうわけで、こういうグループ全体の集会なんかに、金閣さんもゲストで呼んでるわけ。……まあ、見張ってるって言ってもこんな風にみーんな遠巻きに見てるだけなんだけどね

マキ

監視になってないな……

ユサ

体裁だけは守るけどもそもそも誰もあんな家に関わりたくないんですよ、私も冗談で扱っていい存在じゃないの分かってますし。そうじゃなきゃこのチョコフォンデュであの顔匣デコレーションしてやろうか悩めるんだけど

ココア

絶対やめてね……

盛大に盛り上がっているうちに匣の令嬢は、背後に控えていた執事らしき青年と共に、廊下の奥へと引っ込んでいった。

マキ

あちらもノルマは達成といったところだろう。グループの者達は依然、金閣を恐れている。よく分かったハズだ

ユサ

ここに集った人達は兎も角として、あの家を何とかするのが柱たる3家の責務だろーになぁ。ココアちゃん何とかしてくれない?

ココア

あはは……私も、どちゃくそ荷が重いかな――ッ……!?

不穏な気配が去った。

場の空気が緩み、ココアも落ち着いた――と思えたその瞬間。

今度は彼女のみに不穏が再来した。

ココア

……ッ……

ユサ

? ココアちゃん?

ココア

ち、ちょっとお花を摘みに……あはは、行ってきますね――

そしてココアは小走りでこの場を去って行った。

マキ

……? ガマンでもしていたか?

ユサ

乙女の排便事情を考察するのは失礼ですよマキ先ぱ――アイターッ!? 3回もォッ!!

マキ

(……しかしそれにしては、随分と――)

ココア

ッ……はぁ……はぁ……

――最近、ココアは得体の知れない不調に襲われていた。

症状とハッキリ言うべきである。いつもではないが、彼女は変な夢を見るようになった。その内容は全然思い出せないものの、ソレによって睡眠は量質共に大きく阻害され、ハコを抱き抱きしている時ですら彼女は総じて不調であった。

特に酷い時は、こういう大事な場所であっても、得体の知れない「何か」が、恐怖のような何か、そして意識を乱す体調不良として湧き上がってくるのである。

ココア

……今回は、めまい付きだったか……あはは、酷い顔だな……出発の時は、だいぶ誤魔化せたんだけど……

ふらふらとしながら、会場のトイレを出たココア。

ココア

……こんな曖昧なものを、皆に相談しても困らせるだけだもんね……もっと、ちゃんとしないと。タマ先輩にも約束したんだ

故に、今は様子見。それがココアの自己判断だった。

兎も角今は2人のもとへ戻るのが先だ。

ココア

……そう、問題はソレなんだよね……

ココア、数歩でまた止まる。

ココア

ここ、どこだろう……

要は迷子。このクソでかい会場で迷子なのである。

体調も悪いままなので、かなり厳しい状況である。

ココア

ケータイでユサさんに連絡すれば解決だろ、って思うでしょ? でも家に忘れたんですよ、私ポンコツだから――

突然虚空に向かって解説をかましたココア、途端にバランスを崩す。

繰り返すが現在、この子はガチの体調不良である。めまいを起こしている。

そして……床に、倒れこんでしまう。

ココア

(……ああ……動けない……それに、また、”来る”――)

動けず、足掻けず、眠りは大きく口を開ける。

いつも覚えていられない、けど唯一覚えている、高い温度で奥底に焼き付けられるような、恐怖感。

それの待つ闇へと……ココアは飲み込まれていった――

匣の女

……え――?