[4-02]大好きだなぁ
あらすじ
「――今日もこの調子で終わりそうッ!!!」
最強の仕事人・タマ先輩はどんな存在?
当然の如くあの人も存在感を発揮する、鼻血上等インサート4の2節です。
スタート!
――ココアという少女は、ブランド主義というある種特異な文化を継承する黑稜キャンパスにおいて象徴的な存在かもしれなかった。
大した実績はない。大した実力もない。めざましい努力も認められない。少なくとも彼女よりも圧倒的に優秀な学生はいっぱい居る、というか下から数えたらすぐ名前が見つかるくらいだから、ココアは仲間達からポンコツと呼ばれまくっているのである。
しかし、それでも、ココアはカースト上層である。殆ど誰もが崇める対象、その未熟を非難されることもなく、その存在を賛美される素晴らしい学生。
中には彼女の人格を素直に気に入っている輩も多くいる。だがそれ以前に、氷条参席と同質の票を彼女は努力なく勝ち取っている。
だから、ココアは勝ち組である。仮に黑稜の3年間、何の努力をしなくとも――
そんな彼女の、まさしく対極に位置するような黑稜の学生。
どれだけの実績を持とうとも。どれだけの才知を、どれだけの努力を見せようとも。決して評価の対象とはならない、学園屈指の劣等生。
懸命に勉学に勤しむ姿は、誉れ高き黑稜に泥の足跡をまき散らす粗末な蛮族に見られる。玉席の一員として皆の学生生活を支える姿は、白泉の会長の指示に奴隷のように従う黑稜の裏切り者に見られる。
総てはブランドレスであるが故に。黑稜で最も不遇の少女に、今日も陽光が差すことはない――
……………………(←仕事中)
……………………
……………………(←仕事中)
……………………(←チラチラ)
…………
……あー……今日も、良い天気、ですね
…………
えっと……タマくん……?
――! も、申し訳ありません参席、私への言葉だったのですね、集中をしていたとはいえ戴けた言葉を放棄する行為、大変失礼いたしました……
い、いや!? 気にしなくて、よいのですよその程度。何の変哲もない会話のつもりでしたから、むしろ作業に集中できているのは良い事です
は、はい
今日もその調子で、励みなさい
承知しております。必ず――
……ちょっと、ココアくん……
……はい。タマ先輩ちょっと席外しますね
タマ副会長と会話をしてみた氷条参席、無能な伍席を連れて一旦生徒会室から退室。
そして扉を閉めてから、見慣れた顔。
――今日もこの調子で終わりそうッ!!!
あの…叫ぶなら室内にしてくれませんか……? 一般学生に聞かれたくないんですけど……
隣の冷静な指摘は全放棄で美しい学園最高層の女子は頭を抱えて悶える。その勢いのままにスクワットまで始める始末。
……何をしてるんですか扉の前で邪魔です入れないじゃないですか
ごめんねハコ、いつものだから……タマ先輩いるよ
なるほど、今日は事務作業ですか(←入室)
ココアはしばらく嘆きの筋トレタイムの氷条参席を見守っていた。
ポンコツとはいえ、どうしても上手くいかない氷条参席の最低限の手綱を引く技術は今や一級品だった。取りあえず好きなだけ悲しませてあげるのである。
……やがて、一般学生には決して見せちゃいけない類いの顔をあらかた披露し終えたユラはローテンションながら自我を取り戻してきたのだった。
……タマくんとの会話だけは、どうしても上手くいかない……何だこの呪いは? 一体どこに加持祈祷を頼めばこの呪いを振り払える?
呪いじゃなくて、ツララ先輩が突然不器用になってるだけですよ。何の脈絡もなく何なんですか、今日も良い天気ですね、って。そんなの普通の人相手でも会話として長続きしないですよ
じゃあ、何を言えばよかったんだ?
んー、そうですね……私だったら、タマ先輩今日は何だかいつもと香りが違うよう感じたので、柔軟剤とか変えたのかなーって切り出してみるかも。そしたらお洗濯の話とか好きな香りの話とか、タマ先輩の香り好きだなーって話とか続いてできそうじゃないですか。気象の話題よりは楽ですよ
……それは君だから持ち出せる話題だろう……
まぁ私だったらって話ですし……現状のツララ先輩がいきなりそんな話題出したら間違いなく警戒されますね。日頃のストーカー行為でタマ先輩、一体この人は自分の何を試してるんだろうってめちゃ疑ってますし
グサッ(←耳から吐血)
ちなみに最早説明するまでもないことではあるが、こちらの氷条参席は使用済みのティッシュを無意識に拾うレベルでタマ副会長のことが好きなのである。
但し今のところ、それは完璧に一方通行の好意となっている。タマにとってもユラにとっても、最悪な人間関係。
ツララ先輩、最初はタマ先輩のことすっごい虐めてたからなぁ……仮にこのままずっと仲良くなれなくても、自業自得ですからね
その未来を粉砕する為の道具として君は存在するんだろう? ホントガチで何とかしたまえよ、お願いだから
うーん善処はしてますけど……
落ち着いてきたので2人は再び生徒会室に入った。
ハコちゃん、今日も柔らかいな~~……癒やしそのものだよ~~……(抱)
ぐ……こ、この将来の海賊王イオリッシュ=ウケオ=イケイヤクを愛玩動物扱いとは、今日もタマは愚かに愚かが重なってるなり……(照)
ふふ、そう言っていつも最後まで附き合ってくれるから、ハコちゃんのこと大好きだなぁ
――――――――
ハコちゃんのこと大好きだなぁ
ハコちゃんのこと
大好きだなぁ
だ
い
す
き
だ
な
ぁ
――大好きだとぉおおおおおおお――!?!?!?(←大出血)
氷条参席、刹那にしてノックダウン。
物凄い勢いで床を紅い水溜まりを作りつつピクピクとドラゴンフラックをやり出した。
「「!?!?!?」」
ぎゃあぁああああ室内でも派手な出血芸はやめてくださいッ!! 落とすの大変なんですよォ!?(←強アルカリ電解水準備)
タマくんがぁぁぁぁ大好きってぇええええ……!!!
違いますよ、深い意味は無いしツララ先輩に言ったわけでは断じてないんですからね、予め注意しときますけどハコに嫉妬もダメですからねッ!!!
さ、参席……? 一体何が――
ココアがまたフォロースキルを上げてるなり
結局この日も、氷条参席は鉄分を盛大に失っただけで何の進展も掴めなかった。
最高格のブランドを有する令嬢と、ブランドレスの庶民。その差は、その溝は、その壁は。
あまりに大きく、深く、厚い――
…………