[2-3]何で早く着いちゃうかなぁ……
あらすじ
「……何で早く着いちゃうかなぁ……」
ココア様、バ会長との関係は――?
それぞれお察しください、ドキドキの3節。
スタート!
ふわぁ~……今日も疲れた……最高に疲れた……
ココアは帰路に着いていた。
ヤンキー路線に走り出してからは、送迎も拒否って独りで都会の道を歩くようになったココア。
平均的な黑稜学生ならあり得ないセキュリティの低さであるが、謎過ぎる棺桶バッグとヤンキー仕様の服装もあってなのか、彼女がそれ相応の令嬢として危険な目に遭った事は無い。
たまに家政婦ダンベルが「しっかり排除を決め込んできたので今月分は通学路安全だと思いますよ」と報告してくるが、ココアは取りあえず聞かなかったことにしていた。兎も角、彼女は安全な登下校をしていた。
國聖館区から、WKBの特別区へ。鉄道に乗るまでの十数分の徒歩が、疲れたココアの本日最後の試練。
……早く着かないかなぁ……
歩いてりゃ勝手に着くじゃん
まあそうですけど……ん!?
独りで帰ってた筈のココアの隣に、突然のバ会長。
疲れているのがモロに影響した、ココアなりの全力のリアクションを身体で表現した。結果ココアは思いっ切り尻餅を着いた。
いった~~……!!
そりゃそんなノーガードでケツ着くからだろ。そういう時はバク宙して着地をだな
できるか!! ってかバ会長が忍んで来るからいけないんでしょ!!
アレで気付かないお前もどうかと思うがね。アレで気付けないんじゃ、本気出したら肩車してやっても10秒は気付かないかもな
貴方の本気とか何であっても冗談に聞こえない……私、疲れてるんです。どっかのバ会長さんが計画性もなしに沢山の人に喧嘩ふっかけるからー
まだ根に持ってんの? 全勝したんだから結果オーライじゃん
私が不機嫌爆発してる黑稜の方々にフォロー入れまくって大変疲れたのも事実ですー!
あ、そうなの。それは知らんかった
疲れた様子を全く見せていない怪物は、ほっぺばかり膨らませて起き上がろうとしない疲弊お嬢様の手を優しく取った。
ココアは引っ張られた気がして、ちょっと足を踏ん張った。それだけで、特段何の痛みや刺激もなく再びココアは二足で立ち上がった。
流石裏口入学級のカースト上層となると黑稜の反応もだいぶ違うな。特段そっち方面に期待はしてなかったんだけど、やっぱり誘ってよかったな
……何か全然褒められてる気がしない
ガチで褒められる機会なんて殆ど無いんだからこういう時ぐらい喜んどけって。基本的に仕事できないんだし
うー……! 確かにタマ先輩とかツララ先輩とか考えたら私何もしてないに等しいけどー……!! 私だって最近めちゃんこ頑張ってるんだからね!!
へえ、例えば?
ココアはバ会長と共に、再び歩き出した。
先ほどの疲労の存在感が五月蠅い小道を歩く時間とは全く異なり。
高身長で自信過多でそれなりにウザったい秀才バ会長に、精一杯自慢を展開するちっちゃいココアの見上げる時間。
――という感じで、ツララ先輩ほんとどうしようもなくて。アレ絶対ストーカー癖悪化してますよ、バ会長も何とかしてくださいよ!
面白そうだし放置でいいんじゃね?
いやいや、実際の光景見てないからそんな楽観視できるんですよ、もっと凄いこともあって――って……
そんな、一所懸命な時間は。
あっという間の、短さだった。
……もう、着いてた
そんなもんさ。なーんかそれなりに力入れて何かやってたら、案外あっという間に時間過ぎるもんだよ
まだ全然、いっぱいあるのに……
ははっ、ならソレがお前の、純粋な良いところだよ
改札前にて止まったココアの頭を2回、ポンポンと触れた。
そんな彼は、真正面から笑う。
「一生懸命」をたくさん持ってる
――ヒロくん……
続きはまた、今度聞くよ。お疲れさんココア! ゆっくり休めよ、あっでも電車ん中で寝落ちすんなよ~
バ会長はのんびりと、しかし颯爽と、退勤ラッシュの雑踏に紛れて姿を消した。
……ココアは改札を通過。それから、いつものエスカレーターに乗って、ホームへと降りていく。
…………はぁ~……
その間、ココアはゆっくりと、ため息をついた。
……何で早く着いちゃうかなぁ……
それは随分と、熱い吐息だった。